製品情報

電気二重層キャパシタを利用した超小型・超高速応答電動
ダイレクトダイヤフラムバルブ(ECV®) の開発

小路克利

平田 薫 / 西野 功二Hirata Kaoru / Nishino Kouji

(平田)
株式会社フジキン 大阪ハイテック研究創造開発センター 博士(工学)

  • 1997年 東北大学 工学部 資源工学科 卒業
  • 1999年 東北大学 大学院 工学研究科 地球工学専攻 修士課程 修了
  • 1999年 株式会社 フジキン 入社
  • 2002年 東北大学 大学院 工学研究科 機械電子工学専攻 博士課程 修了

(西野)
株式会社フジキン わざづくり(技術)部門 研究創造開発本部 副本部長
大阪ハイテック研究創造開発センター 参事

  • 1983年 金沢工業大学 工学部電子工学科 卒業
  • 1983年 株式会社フジキン 入社

2010年7月18日発刊
「ながれをこえて」Vol.8で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

1. はじめに

デジタルネットワーク対応情報家電分野の進展に伴い、半導体デバイス生産の主流は、少品種大量生産から超多品種の少量生産に移行しつつある。

現状の半導体製造装置は1つのチャンバで1種類のプロセスしか行えないシングルプロセスの装置であり、少量生産に対しては非効率的である。少量生産に効率良く対応するためには、1つのチャンバで複数の異なるプロセスを連続して行なうシングルチャンバ/マルチプロセスを実現することが必要となる。

シングルチャンバ/マルチプロセス装置を実現するためには、複数種類の原料ガスを順次高速に切り替えて装置に供給するガス供給系が必要となる。複数の異なるプロセスを次から次へと同一の製造装置で行おうとすると、プロセスごとに必要な複数のガスを設定されたタイミング、設定された濃度でシリコンウェハ表面に供給する必要がある。

ガス供給の切替えには通常、空圧で作動する自動弁(以下、空圧弁と呼ぶ)が使用される。空圧弁は気密性の高い構造を有しており、流体圧力が1MPa以下であれば容易に制御できるという特徴がある。しかしながら、空圧弁は、駆動部への気体の充填・放出に要する時間が応答時間の9割程度を占めるため、バルブの開閉動作が60~100msecと遅く、かつ、気体を供給する計装チューブ長さ、計装チューブ径、供給する気体の圧力によってバルブの応答時間が異なってくる。その結果、各バルブの応答時間のバラツキにより、設定されたタイミングで正確にガスを供給することが困難であり、シングルチャンバ/マルチプロセスを実現するための大きな問題となっていた。

これらの問題を解決するために、2000年にソレノイド駆動による超小型・超高速応答電動ダイレクトダイヤフラムバルブ(以下ECV®と記す)を開発した。空圧弁における駆動部への気体の充填・放出という伝播遅延時間を省くことができ、バルブ開閉に要する時間が従来の空圧弁と比較して約1/20の5msec以下にすることが可能となった。ECV®を駆動させるためには、専用電源が必要であったが、改良を加え2008年に電気二重層キャパシタを用いることで駆動電源部をECV®本体に内蔵させることに成功した。このことにより専用電源は不要となった。

ここでは、ECV®の動作原理及び特性、さらに電気二重層キャパシタを利用することによる省配線化による省配線化によるコスト削減、省スペース化の取り組みについて述べる。

2. ECV®の特徴

2-1. 構造及び動作原理

図1に2000年開発当時のECV®の構造を示す。ECV®は、棒状のステムと一体を成す可動鉄心を、ソレノイドに通電し電磁誘導により吸引させることでバルブは開(図1では上方向)となり、ソレノイドヘの遮電により、吸引力を開放することでバネの力によりバルブは閉(図1では下方向)とすることができる。そのため、空圧弁における駆動部への気体の充填・放出という動作時間を省くことができる。また、飽和磁束密度が2T(テスラ)以上の鉄・コバルト系合金または鉄・ニッケル系合金からなる磁性体材料を開発・採用し、磁性体材料の体積を非常に小さくすることが可能となったため、流体制御バルブの小型化及び軽量化を図ることもできた。

図1:ECV®(2000年開発当時)の構造

図1:ECV® (2000年開発当時)の構造

2-2. 性能

図2、図3にそれぞれECV®のバルブ応答時間の測定系及び測定結果を示す[1]。バルブの動作確認は、バルブボディを切断してバルブの弁体にあたるダイヤフラムの動きを直接レーザー変位計で測定した。バルブの操作信号は、専用電源に入力する操作信号をオシロスコープでモニタした。

図2:ECV®のバルブ応答時間測定系

図2:ECV®のバルブ応答時間 測定系

図3:ECV®のバルブ応答時間測定結果

図3:ECV®のバルブ応答時間 測定結果

バルブが全閉(または全開)の状態から操作信号を受けて全開(または全閉)するまでの応答時間は5msec以下であり、空圧弁の応答時間である60~100msecと比較して、約1/20以下の応答時間であることが分かる。

2-3. 技術的課題

ECV®に搭載されるソレノイドコイルヘの駆動電流の制御について、タイムチャートを図4に示す。高速開作動の起動時に比較的大きな電流を瞬時にソレノイドコイルに流し、可動鉄心を吸引してギャップだけ持ち上げて開弁し、可動鉄心を吸着させた後は、可動鉄心の吸着保持に必要な比較的小さな電流を流して開弁状態を維持するように電流を制御することによって、コイル駆動部の消費電力を小さな値に抑制している。

図4:開弁時におけるソレノイドコイルの駆動電流のタイムチャート

図4:開弁時におけるソレノイドコイルの駆動電流のタイムチャート

そのためECV®を駆動する専用電源(図5)は、大容量・高電圧のアルミ電解コンデンサ及びそのコンデンサの充放電制御回路を備えており、ケーブルを介してECV®本体に接続することによって、駆動電流を制御している。それら専用電源の電気部品が大型のため、ECV®本体を8台駆動する専用電源の場合、最大限小型化しても、幅169mm、高さ161mm、奥行き130mmのサイズが限度であった。さらに、専用電源とECV®本体との間には配置関係によってかなりの距離が生じるにも拘わらず、それらを接続する配線ケーブルは、短時間ではあるが5A程度の高電流が通電する上、配線距離に応じて配線抵抗が増加するため、必要とされる範囲の配線距離内で作動条件を満足し得る太さの配線を選択する必要があり、配線が高価になってしまうという問題がある。よって、ECV®を駆動する専用電源を小型化、省スペース化することが強く望まれていた。

図5:ECV®本体及び専用電源

図5:ECV®本体及び専用電源

3. 電気二重層キャパシタを利用したECV®専用電源の小型化について

上述した技術的課題は、特殊な活性炭を使用した極めて低内部抵抗の電気二重層キャパシタを用いてECV®の専用電源を小型化し、専用電源をECV®本体に内蔵することで解決可能となった。電気二重層キャパシタは、二次電池と異なり電極での化学反応によって電気エネルギーを蓄えるのではなく、イオン分子が電荷を蓄えるため、充放電による劣化は少なく、長寿命で充放電サイクルが可能である[2]。電気二重層キャパシタ1個あたりの耐電圧は低いが低内部抵抗の特徴を生かし、低電圧・大電流で駆動できるソレノイドを同時に開発することにより、電気二重層キャパシタの特性を有効に活用することができた。以下に、専用電源として電気二重層キャパシタを用いたECV®(以下、新型ECV®と呼ぶ)の構造及び性能について述べる。

3.1 構造

図6に新型ECV®の構造と図7に外観写真を示す。ソレノイドを駆動する主電源として、電気二重層キャパシタを用いて充電電源を構成することにより、専用電源を小型化している。電気二重層キャパシタは、アルミ電解コンデンサと比較して、単位面積当たりの静電容量が非常に大きいため、同じ静電容量であれば大幅な小型化が可能となる。

図6:新型ECV®の構造(左) / 図7:新型ECV®の外観写真(右)

図6:新型ECV®の構造(左) / 図7:新型ECV®の外観写真(右)

電気二重層キャパシタを最適に配置することで、専用電源をECV®本体に取り付けられたケーシング内に駆動回路とともに収納することが可能となった。このことから、従来使用していた別体の専用電源を必要とせず、省スペース化を実現した。

さらに、専用電源をECV®本体のケーシング内に収納して内蔵させることで、専用電源とソレノイドコイルとの間の配線を大幅に短縮し、省配線化によるコスト削減を実現した。また、配線の短縮化により配線抵抗を抑えた分、ソレノイドコイルに流れる電流値を大きくすることが可能となり、ソレノイドを小型化することで、全体のサイズを従来型ECV®の本体と同等まで小型化できた。

3.2 性能

図8に新型ECV®のソレノイド駆動回路構成を示す。駆動回路に用いる電気二重層キャパシタは直列に3個接続しており、最大で25.6Aの放電が可能である。ソレノイドヘの印加電流は、FETによるスイッチング制御を行っている。

図8:新型ECV®のソレノイド駆動回路構成

図8:新型ECV®のソレノイド駆動回路構成

図9、図10にそれぞれ、ソレノイドの吸引力測定の測定系及び結果を示す。ソレノイドの吸引力は361Nであり、バルブ開閉に必要となる推力(245N以上)を満足していることを確認した。

図9:新型ECV®用ソレノイドの阪引力測定系(左) / 図10:新型ECV®用ソレノイドの吸引力測定結果(右)

図9:新型ECV®用ソレノイドの阪引力測定系(左) / 図10:新型ECV®用ソレノイドの吸引力測定結果(右)

新型ECV®の耐久性についてはバルブ開閉耐久試験にて確認を行った。400万回のバルブ開閉試験の前後でヒートシール性、Cv特性には変化がなく、高耐久性を確認している。

4. まとめ

半導体製造装置において、複数種類の原料ガスを順次高速に切り替えて装置に供給するガス供給系を実現するため、ソレノイド駆動による超高速の開閉動作が可能であるECV®を開発した。さらに、電気二重層キャパシタを用いてECV®を駆動する専用電源を小型化し、ECV®本体に内蔵させることで、大幅な省配線化によるコスト削減及び省スペース化を達成した。

今後は、電気二重層キャパシタの内部抵抗増加による経時劣化などを自己診断し、故障予測を行い、外部にアラームを発報する機能を搭載予定である。故障予測により、安全性・メンテナンス性が向上する他、バルブ交換時期を最適化できるため、交換サイクルの低減によるコスト削減にもつながる。

これらECV®の技術は、半導体製造装置の分野のみならず、製薬関連・食品関連等の幅広い分野への応用・展開が可能であり、ECV®の更なる普及が期待される。

参考文献

[1]
ながれとともにながれをこえて、(株)フジキン、P.17- P.21、vol.5、2006.01
[2]
西野敦、他「大容量キャパシタ技術と材料Ⅲ」、CMC出版、2006.07.31