製品情報

閉鎖循境システムによるチョウザメの完全養殖 国産フレッシュキャビア販売へ

平岡潔

平岡Hiraoka Kiyoshi

株式会社フジキン
筑波フジキン研究工場
新事業開発課 主事

  • 1993年3月 近畿大学大学院農学研究科水産学専攻博士前期課程修了
  • 1993年 株式会社フジキン新事業開発課でチョウザメ選任社員として入社
  • 2014年3月 技術士(水産部門)取得
  • 2014年~2016年 水産庁 次世代型陸上養殖の技術開発事業 委員
  • 2014年~ 株式会社フジキン ライフサイエンス事業部准主査

2008年12月28日発刊
「ながれをこえて」Vol.7で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

序文

キャビアは世界三大珍味の一つとしてあまりにも有名な高級食材であり、高級料理には欠かせない「文化」である。しかし、原産国での天然資源減少によって、近年日本国内はもとより、全世界でキャビアの価格は高騰し、入手困難な状況となっている。

フジキンでは、こういった時期となる以前の1988年よりチョウザメの研究を開始し、1992年に民間企業による日本国内初の人工ふ化を行い、1998年にチョウザメの完全養殖に成功し、「キャビア」需要を国内生産で提供することができるよう養殖技術開発を行い、2002年冬季に初めて、純国産の「フレッシュキャビア」の提供を開始した。

チョウザメの完全養殖成功までのながれ

フジキンは近畿地区に2生産工場を持ち、精密ながれ機器製造販売を生業とするが、平成元年、茨城県つくば市の科学万博85跡地に整備された筑波西部工業団地への工場進出をきっかけに本来の事業とは異なった新事業開発の一環として、同工場敷地内にチョウザメ養殖施設を建設した。そして同年、ロシア産チョウザメ「ベステル種」幼魚を100尾導入し飼育実験を開始した。

フジキンでは100%輸入に頼っている高級食材「キャビア」の国内生産販売を行う目的で当事業を立ち上げた。しかし、チョウザメは当時、天然資源が減少傾向にあり、次世代の魚も国内で増殖させる必要性が出てきたため、養殖技術と同時に種苗生産に関する研究も開始した。まず、チョウザメ生産に関する参考文献は、日本語、英語では当時手に入らなかった為、われわれは、導入したチョウザメの生態観察から始めた。すなわち、遊泳行動観察、餌の種類及び摂餌行動観察、飼育最適温度及び生息可能水質の検討、そして性周期の観察など。導入魚にはマイクロタグ(標識)を体内に埋め込んで個別管理できるようにした。

2~3億年程前から生残する古代魚であるチョウザメの生態は、一般に見られる現代魚類とは、一線を画するものがあったが、1991年、当施設における抱卵時期を把握し、翌1992年、日本の民間企業では初めて人工採卵・ふ化に成功した。しかし、ふ化した稚魚の飼育方法については、当時まだ確立されていなかったため、その後2年間の試行錯誤の末、ほぼ確立することができた。

翌年以降、独自のふ化管理方法・飼育方法を順次確立していき、1999年以降は稚魚生存率を70%以上保持できるまでに至った。

フジキンは1994年から本格的に稚魚の大量生産を始めると同時にその稚魚販売を開始、また1995年からはホテルや飲食店への魚肉販売も始めた。

一方で、次世代親魚候補の選別を行ってフジキン施設にて育成を続け、1992年にフジキンで初めてふ化した国内生まれの成魚の抱卵を1998年に確認し、人工ふ化を試み、成功した。

これにより、フジキン施設にて採卵、ふ化され、成長した魚を親魚として、稚魚の生産ができたことにより、フジキン施設内でチョウザメの世代生活史が確立できた(完全養殖)ことになる。

現在のところ、事業開始当初の成魚がまだ現役なのでそれらを用いて稚魚を生産し、稚魚の販売事業を続けているが、フジキンでふ化した次世代候補の魚は雌雄判別して個体管理されており、いつでも利用できる体制を整えている。

完全養殖成功を裏付けた技術について

1. 完全閉鎖循環濾過水槽設備

フジキンでは、工場敷地の立地条件から地下水の取水が不可能であったため、チョウザメ養殖施設には完全閉鎖循環濾過方式を採用し、上水を源水として、飼育水槽の水を生物濾過槽にて浄化し、飼育水槽に戻すという、水リサイクル型の設備とした。

一般的な淡水養殖設備は、河川水や地下水などの自然の水を池へ注水して養殖を行い、食べ残した餌や魚の排泄物などが混じった飼育水、汚水をそのまま排水していることが多いため、自然環境に対する汚染負荷が高く、また、自然水を利用することにより、外界からの病原菌や寄生虫の混入による魚病被害が後を絶たず、やむを得ず抗生物質などの投薬を余儀なくされていた。

完全閉鎖循環濾過設備では、取水源が塩素で殺菌された上水なので基本的に病原菌の混入確率は極めて低いうえ、飼育水槽には魚の排泄物を餌として、これを分解浄化するニトロソモナス・ニトロゾバクター系の細菌が優占種となっているために、他の細菌が繁殖し難い環境となっている。

このため、フジキンの施設では投薬を一切必要としない「オーガニック魚」の生産を続けている。そして、飼育水は生物濾過槽で浄化されて再利用するため、外部からの注水は非常に少なく、濾過槽にて凝縮された汚泥を排出する「逆洗作業」に必要な水と自然蒸発分を定期的に補充するだけで、総水量約800トンのフジキン施設でも1日の平均注水量は約1トンと、家庭用風呂5~6杯分である。

一般の掛け流し方式であれば、同一規模で、1万8千トン/日の注水量が必要であり、その節水効果がよく解っていただけると思う。

また、逆洗作業によって排出された汚泥と水は一時沈殿槽に蓄えられ、分離後の上澄みのみをph監視の上で排水し、残りの汚泥は堆肥として使えるまで分解されているため、敷地内の緑地、樹木へ有機肥料として利用されている。

自然水を利用した一般的な「掛け流し養殖」では、天候などの影響による水質変化が養殖経営の不安定化を招くほか、池の加温冷却を行ってもすぐに排水されてしまうために熱効率も良くないが、完全閉鎖循環濾過設備では水質や温度を効率良く、任意に調節できる利点を持つ。

以上により、フジキンでは環境負荷を限りなく、低減した状態で、チョウザメに最適な環境を創り出すことができ、施設内での世代交代を可能とすることができた。

2. 雌雄判別技術

チョウザメは雌雄判別の指標となる外観上の特徴がない。よって、ふ化2年目以降の性的に未熟な魚の段階で腹部を一部切開し、生殖腺の目視観察によって雌雄判別を行う手法を会得した。

また、判別に使用する手術台を独自で作成し、判別の効率化を行った。これにより、キャビアの親である雌を選別育成し、雄は魚肉食材として早期に販売することが可能になった。

チョウザメが卵を持つまで、天然水域では約15年から20年かかる。しかし、フジキンのような施設を用いて最適条件にて飼育管理することにより、その期間を最短で6年から8年まで短縮することができた。

これにより、世代交代期間を天然よりも半分以下に短縮でき、天然状態で必要とされる広大な自然環境や、大量の水資源が無い場所でも増養殖が可能となり、この技術を使えば、世界中のどこでもキャビアの生産が可能となる。

稚魚

稚魚

独創的新製品の説明

製品名:「卵入りチョウザメ」

製品概要

・魚体重10kg前後のチョウザメ雌成魚のうち、抱卵確認した個体を活魚でホテル・レストランヘ納入する。

・納入されたチョウザメ活魚は、生きたまま厨房へ運ばれ、金槌などで頭部をたたき、気絶させるようにして、死なせることはしない。

・チョウザメ雌成魚が気絶しているうちに、シェフの手によって開腹し、キャビアの元となる筋子状の新鮮なチョウザメ卵巣卵を摘出する。

・卵巣卵は裏ごしネットなどを利用してイクラ状にバラバラにほぐされ、これを洗卵した後に塩(岩塩)を加えて味付けし、フレッシュキャビアを作成する。

ポイントその①

上記の工程は、原産地ロシアのカスピにおける最大のキャビア生産地であるアストラハン地区のキャビア生産現場と、基本的に同じ手法を用いている。これを各レストランの厨房内で行うことで、一般市販品とは違った、新鮮で各店舗独自の味付けを可能としている。

ポイントその②

輸入された一般市販のキャビアは、保存性を高める為に、塩分濃度7~10%という、比較的高濃度の塩分によって味付けしている為、塩味が強いので「料理の塩味としてのアクセント」として主に利用されている。しかし、本商品は卵自体が最も新鮮で安全な状態「活魚」で納入されるため、熱を加えることもなく、塩分濃度を3~5%に抑えた「フレッシュキャビア」を創ることができる。

「フレッシュキャビア」・・・

原産地では、輸出用のいわゆる「缶詰・瓶詰めキャビア」を製造する一方、地元消費向けとして塩分添加量を抑えたキャビアを製造し、特別な席に使われている。これは、チョウザメ卵本来の「卵の味」がするもので、その味は形容しがたいが、一流レストランのシェフの発言として、「なるほど、これでキャビアが世界の三大珍味の一つである理由がよく解った。」と言われた。しかし、塩分濃度が低いことにより、賞味期間は約1~2週間と短く、国外などの遠方に販売されるものではなかった。

ポイントその③

チョウザメの魚肉は、抱卵した雌成魚であってもその肉質は、他の子持ち魚類の様にパサパサといった状態には低下せず、脂ののった状態なので、生食としてはもちろん、燻製や調理をしても、美味しく食べることができるので無駄にはならない。

チョウザメの孵化後1週間目の仔魚(しぎょ)

チョウザメの孵化後1週間目の仔魚(しぎょ)

絶滅を救うフジキンの環境技術〈CSR〉

おかげさまによりまして、ロシアより表彰を戴きました。

(訳文)

このたび株式会社フジキンにおける、絶滅寸前の貴重な魚種、チョウザメの人工受精の成功と、その研究結果を評価し、これを表彰致します。

その元となったチョウザメは、1964年、東京オリンピックの年に旧ソ連より日本に贈られたものであり、フジキン筑波研究工場が、初のチョウザメ養殖プラントとして、設立20周年を迎えたことを記念致します。

2008年07月25日
全ロシア水産企業・経営者・輸出協会会長
Y. I. ココレフ

万博記念つくば先端事業所

万博記念つくば先端事業所