製品情報

燃料電池自動車 高圧水素充てん機用制御弁・遮断弁の開発

曽我尾昌彦

曽我尾 昌彦Sogao Masahiko

株式会社フジキン
大阪工場 技術開発センター
実戦設計課 准主査

  • 1983年3月 愛媛大学工学部 冶金学科卒業
  • 1983年3月 ㈱フジキン入社

2008年12月28日発刊
「ながれをこえて」Vol.7で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

超モノづくり部品大賞開催趣旨

わが国は戦後、飛躍的な発展を遂げました。

これは、企業が機械・電機・自動車など優れた製品を国内外に送り出した結果であります。

しかし、今までは完成品が脚光を浴びることはあってもその内部に隠れている部品や部材に光が当たることはありませんでした。

そこで日刊工業新聞社はわが国のモノづくりを再興し、わが国の産業・社会の発展に貢献することを目的として、「縁の下の力持ち」的存在である部品・部材に焦点を当てた「モノづくり部品大賞」を2003年度から制度化しております。

今回、モノづくり推進会議事業に「モノづくり部品大賞」を移管し、NPO法人ものづくり生命文明機構のご協力もいただき対象領域を「環境関連」、「健康・医療機器」、「生活関連」に広げます。

広くモノづくり産業界をあげて、幅広い分野の優れた“縁の下の力持ち”企業を顕賞することで、わが国モノづくりの一段の活性化、モノづくりの魅力発信につなげて参ります。

(モノづくり推進会議様原文そのまま)

1. 開発の要旨

我が国の産業競争力強化、中長期的なエネルギー基盤技術の確立、エネルギー安定供給確保等に資すると共に、ガソリンなど化石燃料の燃焼によって排出される温室効果ガスの排出量削減や、PM、NOx等の有害排出物の抑制など、環境問題の解決を目的とした燃料電池の研究・開発が国を挙げて進められている。

中でも燃料電池自動車は、排気されるのが水だけという究極のエコカーであり、実用化されているとはいえ普及に向けクリアすべき課題が多く残されている。

燃料電池自動車普及の条件の一つとして、ガソリン車並みの走行距離が求められており、その手段として、充填圧力を70MPaまで高圧化する必要がある。

水素充てん機には、蓄圧器からの高圧水素を燃料電池自動車に安定した充てんをする為の流量制御弁と充てん作業の開始時と充てん終了時に開閉し、水素ガスを遮断する機能を持つ遮断弁が必要である。

そこでフジキンは燃料電池自動車向けの水素供給インフラ用に84MPa(70MPa燃料電池自動車の水素充填には、1.2倍の圧力が必要)水素充てん機向け制御弁・遮断弁を開発した。(図1、図2)このシステムに使用される流量制御弁・遮断弁には弁の外部に水素ガスを漏洩させないためのグランド部分のシール性能に関わる技術が重要であり制御弁・遮断弁の耐久性能を左右する。

この制御弁・遮断弁の信頼性・安全性の向上は燃料電池自動車向の普及に欠かせないテーマである。

フジキンは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)様の委託開発事業として、日立製作所様、トキコテクノ様と共に高圧水素充てん機の実用化に取り組み、制御弁・遮断弁の開発に成功した。

図1. 燃料電池自動車高圧水素充てん機用「制御弁」の構造と外観

図1. 燃料電池自動車高圧水素充てん機用「制御弁」の構造と外観

図2 燃料電池自動車高圧水素充てん機用「遮断弁」の構造と外観

図2 燃料電池自動車高圧水素充てん機用「遮断弁」の構造と外観

2. 開発目標

84MPaの高圧水素を燃料電池自動車の燃料タンク(150L)の圧力が0MPaのとき、電気信号にて5~10分間以内に70MPaに充填可能な流量係数(Cv値)を有し、充填昇圧速度が自由に制御可能な流量制御弁及び同等の流量係数(Cv値)を有する遮断弁を開発することを目標とする。

作動回数の目標値は15万回とした。(1日100台の燃料電池自動車に水素を充てん。1年間に300日充てん所を稼働。5年間メンテナンス不要)開発目標の仕様を表1に記す。

表1 制御弁・遮断弁開発目標仕様

表1 制御弁・遮断弁開発目標仕様

3. 開発の成果

84MPaの高圧水素ガスを、内部・外部漏洩なく15万回の開閉に耐える性能を得る為に、特に外部漏洩対策として、自己潤滑性が高く耐磨耗性の優れた特殊なパッキンと、特殊配合で製作したゴムOリングの2重シールを組合わせた構造とし表1に示す仕様にて15万回の開閉耐久性能をNEDO様の委託開発事業において検証した。気体中最も分子量が小さく、最もシールが困難な水素ガスを84MPaという高圧化でも信頼性の高い世界最高の、かつ今までのバルブ産業界にはなかった性能を有する高機能バルブを開発することが出来た。

NEDO様からの委託業務の1つとして、デスペンサーメーカーの㈱タツノ・メカトロ二クス様が行なった、類似品の開閉耐久性(圧力は、40MPaにての評価)を表2(No.1以外は、一般公開資料)に示す。

評価対象となった、欧米メーカーの類似製品との比較でも、ダントツの性能差を示している。

表2 比較表

表2 比較表

4. 開発製品の経済性

図3、図4が従来製品と今回開発が終了した製品のサイズの違いを示したものである。

弁耐圧部の構造の見直しと、アクチュエータ部の構造の見直しにより、大きさが約50%ダウンしたことから、材料費、加工費等の比較をすると、同じ仕様で概ね従来品の3分の2以下のコストとなり、高額な水素スタンドの建設費用の削減にも貢献出来るものになった。

また、開閉耐久回数15万回は、水素スタンドが1日100台の燃料電池自動車に水素を充てんし、1年間に300日営業した場合5年間メンテナンスフリーの営業が可能になる等のランニングコストにおいてユーザーに対するコストパフォーマンスに繋がると考える。

図3. 遮断弁(左) / 図4. 制御弁(右)

図3. 遮断弁(左) / 図4. 制御弁(右)

5. 開発品の実績と今後の普及見通し

現在、経済産業省が実施する燃料電池システム等実証試験補助事業の水素燃料電池実証プロジェクトにて、JHFC-Ⅱ(70Mpa級燃料電池自動車実証試験)プロジェクトが推進されている。このプロジェクトの計画では70MPa用燃料電池自動車水素スタンドを3基、移動式水素スタンド1基の建設が進められており、そのうちの2ヵ所のスタンドと移動式スタンドにはフジキンの制御弁・遮断弁が採用されている。

また、NEDO様のロードマップによると水素燃料電池自動車は2015年を燃料電池自動車普及初期、2020~30年を本格商用化の時期としており、水素スタンド1ヵ所に遮断弁5~6台、制御弁1~2台使用される。

本事業以外に九州大学様が伊都キャンパスに展開している水素利用技術研究センターは、文部科学省21世紀COEプログラム「水素利用機械システムの統合技術」の実践拠点として次世代の燃料電池や水素製造・貯蔵技術、水素計測技術等の開発のための多くの実験棟を建設しており、この設備にも本開発によって完成したフジキンの制御弁・遮断弁が数多く採用されている。

また、自動車メーカー様の研究開発部門や自動車以外の燃料電池の研究部門等高圧水素を取り扱うユーザー様に広く売り込んでいく予定である。