製品情報

高度半導体製造プロセスのための耐腐食性集積化マスフローコントローラ

平田薫

平田 薫Hirata Kaoru

株式会社フジキン
大阪ハイテック研究創造開発センター
博士(工学)

  • 1997年 東北大学 工学部 資源工学科 卒業
  • 1999年 東北大学 大学院 工学研究科 地球工学専攻 修士課程 修了
  • 1999年 株式会社 フジキン 入社
  • 2002年 東北大学 大学院 工学研究科 機械電子工学専攻 博士課程 修了

2008年12月28日発刊
「ながれをこえて」Vol.7で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

概要

本論文では、反応性及び腐食性ガスに対して耐食性を有するステンレススチール及びアルミニウムナイトライド(AlN)で作製した耐腐食性集積化マスフローコントローラの製作と特性評価について述べる。

作製したマスフローコントローラはノーマリオープンタイプのマイクロバルブと熱式質量流量センサから構成される。ステンレス製のダイヤフラム上に設置された積層型ピエゾセラミックスをバルブアクチュエータとして用い、正確且つ高速のガス流量コントロールが可能である。質量流量センサは1対のヒータ線から構成され、ヒータ間の抵抗変化の差を測定することにより質量流量を検出する。流量センサの信号をバルブアクチュエータへフィードバックすることにより、質量流量を常に一定に保つことが可能である。

作製したデバイスは、小サイズ化及び集積化による無効体積の減少により、10msec以下の高速応答性を示した。また、本デバイスは塩素ガス中で動作させた際も問題無く動作することを確認した。よって、今回開発した集積化マスフローコントローラは、高速応答で腐食性ガスの質量流量をコントロールする必要がある高度半導体製造プロセスに適用可能であると思われる。

1. はじめに

MOCVD(Molecular Organic CVD)やALE(Atomic Layer Epitaxy)のような高度半導体製造プロセスでは高速応答で且つ正確な質量流量のコントロールが必要とされる。そのような用途から、1987年に江刺らによってシリコンウェハ上に製作された集積化マスフローコントローラが開発された[1]。

フローセンサと流量コントロール用のバルブを集積化することにより、高速応答を実現できるだけでなく、マスフローコントローラ内部の無効体積を減少させることも可能となる。本デバイスは1msec程度の高速応答を示したが、腐食性及び反応性ガスのコントロールには適用できなかった。一方、ガス流路内部に堆積する反応性生物の堆積を防ぐため、吸着した水分を蒸発させることができる空焼き可能なシリコンマイクロバルブが沈らにより開発された[2]。

しかし、シリコン製の集積化マスフローコントローラや空焼き可能なシリコンマイクロバルブは、本質的にシリコンに対して腐食性を有するハロゲンガスのコントロールには適用できないといえる。腐食性ガスのコントロールが可能な集積化マスフローコントローラを実現するためには、シリコンの代わりにステンレススチールのような耐食性を有するものを製作材料として用いる必要がある。さらに、ステンレススチールは溶接が可能であるため、従来のステンレススチール配管との結合が容易となる。本論文では、ステンレススチールを用いて製作された耐腐食性集積化マスフローコントローラについて述べる。

2. 設計

図1にノーマリオープン型の耐腐食性集積化マスフローコントローラの構造を示す。ステンレススチール(SUS316、SUS316L)が耐食性材料として主に用いられる。

図1 耐腐食性集積化マスフローコントローラの構造

図1 耐腐食性集積化マスフローコントローラの構造

本構造は、ステンレススチール製のボディ・プレート及び固定用ブロックで構成される。ボディは従来の機械加工により製作され、ガス流路・バルブシート及びガスケットをはめる溝を形成する。バルブのダイヤフラム部及び質量流量センサはプレートに形成される。固定用ブロック及びプレートは4本のボルトを用いてボディにねじ止めされる。ガス流路はガスケットを専用の溝にはめてハーメチックシールする。ガスケット材には、耐食性を有し且つハーメチックシールの際に変形しやすい金を用いた。流量調整用のバルブは、高速且つ大きな駆動力を持つ積層型ピエゾセラミックスをバルブアクチュエータとして採用した。ピエゾセラミックスに適当な電圧を加えるとピエゾセラミックスが伸長し、図1に示したようにバルブのダイヤフラム部がバルブシートと接触して、ガスの流れが止まる。図2は質量流量センサの構造である。

図2 質量流量センサの構造

図2 質量流量センサの構造

図2に示したセンサはマイクロマシニング技術により耐食性材料を用いて製作される。マイクロマシニング技術により小型化されたセンサは、センサ自身の熱容量が非常に小さくなるため高感度且つ高速応答となる。2本のプラチナ製の薄膜抵抗は適当な電流を流すことにより加熱される。これらの薄膜抵抗は周辺温度を測定する素子としても用いられる。2本の薄膜抵抗周辺にガスを流すと共に冷却される。薄膜抵抗からの熱量の移動量(H)はKingの式により以下のように表される。

H = ( A+B√Q )( Ta - T )

ここで、Q、T及びTaはそれぞれ質量流量、薄膜抵抗の温度、そして流体の温度であり、A及びBは定数である。下流側と上流側の薄膜抵抗の温度差は質量流量に依存し、ホイートストンブリッジを用いてそれぞれの抵抗値の変化を測定することにより温度差を検出可能である。薄膜抵抗は1μmのAlN膜及び9μmのSiO2膜でサンドイッチ状に挟まれ、ダイヤフラムを形成している。AlN膜はフッ素や塩素などのハロゲンガスに対し耐食性を有するため、ガス流路側に向かい合っている。

3. 製作

質量流量センサの製作プロセスを図3に示す。

図3 質量流量センサの製作プロセス

図3 質量流量センサの製作プロセス

まず、□20mm・厚さ150μmのステンレスのプレート上に1μmのAlN膜を400℃・N2雰囲気下で反応性スパッタリングにより成膜する。次にフォトリソグラフィによりフォトレジストをパターニング後、Cr/Pt/Cr(30nm/50nm/30nm)をEB蒸着により成膜し、リフトオフ・プロセスにより抵抗のパターンを形成する。AlNの薄膜を支えるため、抵抗パターンの上からTEOS(テトラエトキシシラン)を用いたプラズマCVDにより9μmのSiO2膜を成膜し、フォトリソグラフィを行った後にバッファード・フッ酸によりSiO2膜をパターニングする。プラズマCVDによる製膜方法は、製膜されたSiO2膜の残留応力が小さいため選択した。最後に、裏面側にフォトリソグラフィを行った後に、ステンレススチールをエッチングしてSiO2/AlNのダイヤフラム構造とガス流路を形成する。図4に製作された質量流量センサの写真を示す。ステンレススチールのプレート上に質量流量センサを製作した後、プレートをステンレススチールの固定ブロックとボディの間に挟んで固定する。バルブアクチュエータとして用いる積層型ピエゾセラミックスをエポキシ樹脂により接着した後、100Vの高電圧を印加し、積層型ピエゾセラミックスを伸長させたまま樹脂を硬化させる。エポキシ樹脂が完全に硬化した後に電圧を切ると、積層型ピエゾセラミックスが元の長さに戻り、ステンレススチールのダイヤフラム部とバルブシートとの間にわずかなギャップが形成される。製作された集積化マスフローコントローラ(20mm×20mm×20mm)の写真を図5に示す。

図4 製作された質量流量センサ(左) / 図5 製作されたマスフローコントローラ(右)

図4 製作された質量流量センサ / 図5 製作されたマスフローコントローラ

4. 特性評価

4-1. 積層型ピエゾバルブ

Cl2ガスを用いて評価されたバルブの流量特性を図6に示す。このとき、Cl2ガスの流量は製作した集積化マスフローコントローラのガス入力側に取りつけられた市販の質量流量計により測定した。積層型ピエゾセラミックスは100Vの電圧で約6.5μm伸長させることが可能である。バルブクローズ時においてもバルブシートから若干のリークが確認されたが、これはステンレススチールのプレートの表面が非研磨状態(1μmRmax)であった影響である。よって、今回確認されたリークはステンレススチールのプレートを研磨することにより改善されると思われる。

図6 バルブの流量特性

図6 バルブの流量特性

4-2. 熱型質量流量センサ

Cl2ガスの流量に対する質量流量センサの出力電圧の関係を図7に示す。出力電圧値は、質量流量の平方根にほぼ比例している。Cl2ガスを流した後も、質量流量センサ部には特に変化は無く、問題無く動作することを確認したことから、製作した集積化マスフローコントローラのハロゲンガスに対する耐食性が示されたものと思われる。

図7 質量流量センサの流量特性

図7 質量流量センサの流量特性

4-3. マスフローコントローラ

製作したデバイスのマスフローコントローラとしての特性は以下に述べる通りである。図8に示した実験系において、ガス入力側の圧力を変化させたときのCl2ガスの流量変化を測定した。図8の実験系を適用することにより、流量調整信号によって質量流量のコントロールが可能である。図9はガス入力圧力に対する質量流量及びバルブアクチュエータに印加される電圧値との関係である。流量調整信号を一定値に保持したとき、ガス入力圧力の増加に従ってバルブアクチュエータの電圧値が上昇し、バルブ部のギャップが狭くなる。実際、ガス入力圧力を40kPaから100kPaに変化させたとき、質量流量の変化は2SCCM以内であった。図8と同様の実験系を用いて、製作したマスフローコントローラのステップ応答特性についても測定を行った。

図8 集積化マスフローコントローラの実験系(左) / 図9 集積化マスフローコントローラの流量制御特性(流量調整信号 ①②)

図8 集積化マスフローコントローラの実験系(左) / 図9 集積化マスフローコントローラの流量制御特性(流量調整信号 ①②)

図10は、流量調整信号をステップ状に変化させたときの質量流量センサの出力及びバルブアクチュエータの電圧値の関係である。図10より、製作したマスフローコントローラのガス流量応答は10msec以内であることが確認された。高速応答を達成できた理由としては、バルブアクチュエータ及び質量流量センサの高速応答化に加え、ガス流路の無効堆積を減少させたことが挙げられる。

図10 流量調整信号のステップ変化に対する質量流量センサ出力及びバルブ電圧

図10 流量調整信号のステップ変化に対する質量流量センサ出力及びバルブ電圧

5. 結言

反応性及び腐食性ガスに対して耐食性を有するステンレススチール及びアルミニウムナイトライド(AlN)を接ガス部とした耐腐食性集積化マスフローコントローラを開発した。製作したマスフローコントローラには、ノーマリオープンタイプのマイクロバルブ及び熱型質量流量センサを集積化した。バルブには積層型ピエゾセラミックスをアクチュエータとして用いており、正確且つ高速の流量コントロールが可能である。製作したデバイスは、閉ループ制御により質量流量をほぼ一定に保つことが可能であった。また、ガス流量応答は10msec以内であった。今回製作した集積化ガス流量制御システムは今後、高度半導体製造プロセスに応用されることが期待される。

参考文献

[1]
M.Esashi, S.Eoh, T.Matsuo and S.Choi, ”The Fabrication of Integrated Mass Flow Controllers”, 1987 Int. Conf. on Solid-State Sensors and Actuators, pp.830-833 (1987)
[2]
D.Sim, T.Kurabayashi and M.Esashi, “A bakable Microvalve with a Kovar-Glass-Silicon-Glass Structure”, J. Micromech. Microeng. 6, pp.266-271 (1996)