製品情報

70MPa級 圧縮水素容器用温度式安全弁の開発

大道邦彦

大道 邦彦Daido Kunihiko

株式会社フジキン
大阪工場 技術開発センター
実戦設計課 准参事

  • 1982年3月 熊本大学工学部 生産機械工学科卒
  • 1982年3月 富士金属工作㈱(現 (株)フジキン)入社

2008年12月28日発刊
「ながれをこえて」Vol.7で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

1. 開発の要旨

温度式安全弁は、従来から圧力容器の附属品として使用されており、火災の際、容器が破裂しないよう、温度を感知して容器内の流体を外部に放出するという、安全確保のための重要な機能を有している。

水素燃料電池自動車の走行距離を500kmまで伸ばすため、圧縮水素容器への充てん圧力の70MPaへの高圧化と共に、軽最化のため従来主流であった鋼製容器以外の種々の製造方式による容器の研究開発が進んでおり、耐熱性能をはじめ、従来とは異なる特性を持つ容器の普及が予測されている。

そのため、容器に関しては、日本国内では高圧ガス保安法例示基準、海外においてもISO等の見直しが行われている。

温度式安全弁についても、国内外の新基準に適合する為に、従来とは違った発想による構造が求められおり、フジキンは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)様の委託開発として、平成15,16年度に基本構造の検討を行い、各構成要素の基本性能及び材料特性データの確認等を実施し、平成17年度に基本性能確認試験を実施し、平成18年度に単体の信頼性確認試験を実施し、平成19年度に容器に取り付けた状態の信頼性試験を実施した。

2. 開発目標

温度式安全弁は、圧力容器に不可欠な構成機器である。従来から使用されている温度式安全弁の多くは、容器内圧力による荷重が可溶合金にかかる構造となっている。そのため、容器の充てん圧力が高圧になる程、可溶合金にかかる荷重が大きくなり、クリープが発生する可能性がある。

20MPa充てんの圧縮天然ガス容器において、可溶合金のクリープによる温度式安全弁の誤作動の事例が報告されており、水素燃料電池自動車に搭載される70MPa級圧縮水素容器用温度式安全弁の信頼性確保のためには、可溶合金のクリープ対策が重要な要素となる。

以上より、本研究開発では、容器内圧力による荷重が可溶合金に直接かからない構造で、かつ下記の仕様を満足する温度式安全弁を具体化することを目標とした。

表2.1 温度式安全弁 設計仕様

表2.1 温度式安全弁 設計仕様

3. 開発の成果

3.1 基各構成要素の形状及び材質の検討

温度式安全弁の各構成要素の構造や材質の検討を行い、その結果に基づき構造モデルを製作して、各要素に作用する荷重・応力に対する強度解析と評価を行った。

  • (1) 基本的構造の検討
  • (2) 使用現境及び流体との適合性を考慮した材質の検討
  • (3) 強度解析と評価
  • (4) シール部構造と材質の検討
  • (5) シール部試作品の製作
  • (6) シール部試作品の性能評価
  • (7) 耐環境性を考慮した可溶合金の材質検討と特性評価

図3.1 温度式安全弁構造図

図1 グランド部耐久試験用供試バルブ

3.2 コンバクト化、 軽量化のための最適構造の検討

温度式安全弁のコンパクト化、軽量化を目的として、各構成要素の配置やボディ部材の嵌合方法等についての検討を行った。

  • (1) ボディ部材の嵌合方法の検討
  • (2) 容器元弁との接続方法の検討
  • (3) 大気放出側接続方法の検討
  • (4) 全体構造図の検討(単体独立型)
  • (5) 全体構造図の検討(容器元弁内蔵型)

3.3 製造方法の検討

全体構造図の検討結果を基に各構成要素の詳細設計を行い、生産ロットの規模に応じて、効率的でかつコスト的にも最適な製造方法の検討を行った。

また、組立や検査に関しても、効率的な方法の検討を行った。

  • (1) 本体等耐圧部品の製造方法の検討と試作
  • (2) 可溶合金の製造方法の検討と試作
  • (3) その他の部品の製造方法の検討と試作
  • (4) 組立及び検査方法の検討及び治具の試作

3.4 基本性能試験

耐圧性能試験、気密性能試験、作動温度試験等の基本性能試験を実施して、基本性能評価を行い、全項目について、所期の目標を満足する結果を得た。

  • (1) 耐圧性能試験
  • (2) 気密性能試験
  • (3) 4倍耐圧試験
  • (4) 作動温度確認試験
  • (5) 作動時流量測定試験

3.5 信頼性確認試験

圧カサイクル試験、ヒートショック試験、低温放置試験等の温度式安全弁単体の信頼性確認試験を実施して、全項目について、所期の目標を満足する結果を得た。

  • (1) 圧カサイクル試験
  • (2) ヒートショック試験
  • (3) 低温放置試験
  • (4) 加速寿命試験
  • (5) 塩水噴霧試験
  • (6) 振動試験

また、圧縮水素容器と組合わせた状態で、JARIS 001「圧縮水素自動車燃料装置用容器の技術基準」に基づき、水平試験により火炎暴露試験を実施し、基準を満足する試験結果を得た。

写真3.5.1 火炎暴露試験状況と試験後の供試体

写真3.5.1 火炎暴露試験状況と試験後の供試体

表3.5.1 火炎暴露試験結果

表3.5.1 火炎罪露試験結果

4. まとめ及び課題

温度式安全弁は、水素燃料電池自動車に搭載される70MPa級圧縮水素容器の普及のために不可欠な構成機器として位置付けられており、本研究開発事業における構造や構成要素の検討(平成15,16年度)、及び、各種の性能試験(平成17~19年度)により、高圧水素ガス用機器としての信頼性に加え、自動車搭載部品としての信頼性を検証し、所期の目標を達成した。

温度式安全弁の性能や信頼性評価については、圧力容器及び容器元弁にセットした状態での火炎暴露試験等、温度式安全弁単体では実施できないものも多く、これらの機器メーカーとの共同試験により、データの蓄積が今後の検討すべき課題と考える。

5. 実用化・事業化見通し

温度式安全弁は、重要な容器構成機器であるが、従来は容器元弁の一要素として設計・製作されるケースが殆どで、単体として扱われるのは少数であった。

しかし、今回の成果を広く認知いただくことで、70MPa級圧縮水素容器用温度式安全弁としての独自性・信頼性を評価いただければ、単体機器としての事業化へ繋がると考える。