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超高純度ガス供給技術を応用した分析技術に関する研究

日高敦志

日高 敦志Hidaka Atsushi

株式会社フジキン
大阪ハイテック研究創造開発センター
博士(工学)

  • 1997年 山口大学 工学部 機能材料工学科 卒業
  • 1999年 山口大学 大学院 理工学研究科 機能材料工学専攻 修了
  • 1999年 株式会社 フジキン 入社
  • 2005年 東北大学 大学院 工学研究科 電子工学専攻 博士課程 修了

1. はじめに

デジタルネットワーク対応情報家電分野の進展に伴い、超LSI用の低誘電率層間絶縁膜やデイスプレイ用の光学フィルムといった有機系の材料が重要部材として使われ始めている。

その低誘電率特性や光学特性,透明性,成形加工性,軽量性といった有機材料のみが有する特性を活かし高性能化,高速化を達成するためである。しかし、これらの有機材料は、製造プロセス時の加熱工程により低分子成分に分解・解離するため、デバイスの性能劣化および製品の品質劣化を引き起こす(注)[1,2]と共に製造プロセスの高温化を阻害することから、製造装置の小型化や生産性の向上を妨げている。

これらの問題を解決するために、有機材料の分解・解離の要因および機構を明らかにすると共に有機材料の分解・解離を抑制するための対策を確立することが強く求められている。

本研究では超高純度ガス供給技術を応用することで、有機材料の分解挙動をng(ナノグラム)オーダーで検出可能とする超高感度分析技術を確立し、有機材料と接触する固体表面が示す触媒作用による分解挙動への影響および製造プロセス雰囲気中の酸素,水分ガス濃度の分解挙動に対する影響を詳細に明らかにした。また、得られた結果に基づき、有機材料の分解・解離を抑制できる最適な製造プロセスの指針を新たに提案した。

本研究では、従来の研究では扱われていなかった製造プロセス時の加熱工程における有機材料の分解挙動に着目し、有機材料の分解挙動に影響を与える要因について系統的で正確な実験を基に検証および考察することで、最終的に有機材料の分解を抑制するための対策となる指針を導くことを可能とする分析技術の確立を目的とした。

半導体デバイス・平板デイスプレイ製造において各種有機材料の引き起こす問題点を抽出すると共に、その分解メカニズムを解明することにより、より高性能な次世代半導体デバイス・平板デイスプレイを実現するための各種製造プロセスの指針に関して以下に示す知見を得た。

2. 超高純度ガス供給技術を応用した分析技術

本研究では、製造プロセス時の加熱工程における有機材料の分解を抑制する目的で各種有機材料の分解挙動に着目した。しかしながら、このような観点から実施された研究例はない。

その最も大きな理由は、不純物および汚染物質が極限まで低減された分析・評価環境を実現することができなかったためである。一般的な評価環境レベルでは、分析・評価環境中の水分や酸素,各種有機物を含む不純物濃度の制御が全くできていない。さらに、被検体が接触する固体表面材料が示す触媒効果についても無考慮である。

このように制御されてない環境下での評価がなされているため、材料の分解要因が全く不明確になっている。このため、有機材料の分解挙動に対する系統的で正確な実験が非常に困難になっている。分析・評価環境中に不純物や汚染物質が存在すると、有機材料の分解要因を正確に特定することが困難になる。

これらの問題点を克服するために、不純物および汚染物質を極限まで低減可能である超高純度ガス供給技術(注)[3,4]を応用し、超高感度分析技術を構築した。

図1に有機材料の分解挙動に影響を与える要因について測定および分析することを目的とした実験系全体の概略図を示す。この実験系は、大きく分けてガス供給系およびリアクタ一部そして分析装置から構成されている。ガス供給系に使用している全ての部材は、オールメタル製である。接ガス部に樹脂部品は一切使用していない。

バルブは、ガス滞留部を極限まで低減したダイレクトダイヤフラムバルブである。ガス供給に使用した配管はステンレス製(SUS316L)で、外径6.35mmφ(1/4インチ),肉厚1.0mm, 内表面は電界研磨(EP:Electro Polish)処理してある。さらに、配管内表面およびバルプ等の部材を含む全ての接ガス表面にはCr2O3不働態処理を施してある。Cr2O3不働態処理表面は、SUS316L-EP表面に比べて耐腐食性,非触媒性に優れ、水分や有機物等の吸着量が少なく、またベーキングによるそれらの脱離も容易であることが実験的に証明されている(注)[5]

図1 有機材料の分解挙動分析を実現できる実験系全体の概略図

図1 有機材料の分解挙動分析を実現できる実験系全体の概略図

すなわち、ガス供給系内からの放出ガスが極限まで低減されていることから、不純物および汚染物質を極限まで低減したガス供給系および実験環境が実現できている。実験系内および供給可能なガス中の水分や酸素,各種有機物を含む不純物濃度は0.2ppb以下にまで低減できており、超高純度を維持している。

したがって、実験時の有機材料の周辺環境における各種不純物ガス濃度の制御可能範囲は、1.0ppb~100%という広範囲を実現しており、自在に制御可能である。

さらに、ステンレス製配管を利用したリアクターは、配管内表面を様々な固体表面へと自在に変更可能であるため、有機材料と各種固体表面との1対1の反応性の評価も可能となる。このような特徴を有するリアクター配管と分析精度向上を達成したガス分析専用Cellを組み合わせることにより、ng(ナノグラム)オーダーの分解副生成物を検出可能とした。この超高感度分析技術により、従来の分析装悩の分解能である0.1mgと比べ5桁以上の高感度化を実現した。

これらの実現により、従来技術では全く不可能であった有機材料の分解・解離特性に対する系統的で正確な分析を可能とした。

この分析技術によって、製造プロセス時の加熱工程において有機材料が接触する固体表面が示す触媒作用および製造プロセス雰囲気中の微量酸素や水分(酸化性ガス)といった要因が分解挙動に与える影響を明らかにできる。

ここでは、層間絶縁膜材料の分解抑制技術について焦点を絞り、以下に述べる。

3. 層間絶緑膜材料の分解抑制技術

超LSIの高速化に不可欠な低誘電率(Low-k)層間絶縁膜の次世代有力候補であるフロロカーボン(CF)材料は、成膜後の後工程におけるCVDやシンタリングといった400℃程度の加熱工程におけるCF膜そのものの分解による脱ガス発生により、デバイスの性能劣化が問題になっている。したがって、成膜プロセス時の加熱工程において、CF膜からの脱ガス発生を抑制することは重要になる。

分解生成ガスが発生する原因は、

  • 1) 層間絶縁膜と接しているCu配線の拡散バリア膜として一般的に使われているTaN表面が示す触媒効果 による分解促進,
  • 2) 層間絶縁膜中に吸着・吸蔵されている酸素や水分による酸化分解の可能性が考えられる。

CF膜の模擬材料として、フッ素系樹脂材料であるPTFE(Polytetra fluoroethylene)を選定した。PTFEはFとCのみから構成されており、CF材料として理想的な化学構造を有している(図2)。また、その比誘電率は、2.06である。サンプルサイズは、PTFEを切断して2×8×1mmに統一した。

図2 PTFEの化学構造

図2 PTFEの化学構造

サンプルを加熱するリアクター配管は、外径9.52mmφ(3/8インチ),肉厚1.0mm,長さ100mmである。実験手順は以下の通りである。まず、リアクター配管内表面上に吸着している水分や有機物を除去するために、パージラインから超高純度Arガスを1SLM流しながら500℃にて1時間加熱した。

その後、リアクター配管内にサンプルをセットした。そして、リアクター配管上流のバルブ切り替えによりガス供給ラインを変更し、流量5sccmの超高純度Ar(所定濃度のO2/ArあるいはH2O/Ar)ガスをリアクター配管へ供給した。その後、リアクター配管を電子温度調節器(DTC)にて25℃~500℃まで徐々に加熱した。

昇温速度は2℃/minである。加熱により分解したサンプルからの分解生成ガスが検出され始めた温度を分解開始温度と判断した。サンプルからの分解生成ガスの放出挙動はFTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)にて測定した。さらに、リアクター配管の内表面を異なる固体表面に変更することで、サンプルと各種固体表面の反応性を評価することが可能になる。

図3にPTFEの熱分解挙動の接触表面依存性を示す。

図3 PTFEの熱分解挙動の接触表面依存性

図3 PTFEの熱分解挙動の接触表面依存性

縦軸は吸光度、すなわち熱分解によるサンプルからの分解生成ガス量を意味している。横軸は、サンプル温度を示している。PTFEが接触している固体表面は、TaN表面,Ni表面,NiF2表面,SUS316L-EP表面,Al2O3不働態処理表面である。接触している固体表面の違いによりPTFEの熱分解開始温度が異なっていることが分かる。

NiおよびNiF2表面上におけるPTFEの熱分解開始温度は400℃であり、TaN表面における熱分解開始温度より20℃高温までPTFE構造を分解させずに維持している。熱分解開始温度が異なっていることは、各種固体表面が示す触媒効果のため、固体表面の種類に依存したのである。熱分解開始温度が高温側であるほど非触媒性に優れた表面であることを意味している。PTFEに対してNiおよびNiF2表面が最も非触媒性に優れていることを明らかにした。

成膜プロセス時の最大400℃程度の加熱工程においてCF膜を分解抑制可能な表面は、NiまたはNiF2表面のみである。したがって、バリアメタル材料を現状のTaNからNiまたはNiF2に置き換えることで、最大400℃程度の加熱工程においてもCF膜の分解を抑制することが可能であることを示唆している。

このように、Low-k層間絶縁膜のためのCF材料に接触する金属材料(バリアメタル)の最適化は、加熱工程における層間絶縁膜の分解を抑制するために必要不可欠なのである。

同様に雰囲気中の酸素および水分ガス濃度依存性を調査した結果を図4と図5に示す。サンプル周辺雰囲気の酸素濃度は無添加,10ppm, 100ppm, 1%, 20%に、水分濃度は無添加,1ppm, 10ppm, 100ppm, 1%に正確に制御した。各実験時のPTFEの接触表面はNi表面である。酸素および水分濃度の増加に伴い、PTFEの分解開始温度が低温化している。酸素および水分は、明らかにPTFEの分解を促進する要因となっていることが分かる。

僅か100ppmの酸素および水分がサンプル周辺雰囲気に存在するだけで、PTFEの分解開始温度を低下させてしまうのである。PTFEの酸化分解を抑制できる酸素および水分濃度の下限値は、10ppmであることを明確にした。

図4 PTFEの分解挙動の酸素濃度依存性(左) / 図5 PTFEの分解挙動の水分濃度依存性(右)

図4 PTFEの分解挙動の酸素濃度依存性(左) / 図5 PTFEの分解挙動の水分濃度依存性(右)

4. NiおよびNiF2のバリアメタルヘの検討

これまでに得られた結果を踏まえ、NiおよびNiF2がCu配線の拡散バリア膜として有用であるかを調査した結果を示す。

超LSIの高速化を目的とし、Al配線からCu配線への置き換えが行われてきた。しかし、配線材料をCuへ変更したことで300℃以上の加熱工程においてCuが層間絶縁膜中に拡散してしまうという問題が発生する。現状では、その拡散を防止するためのバリア層をCu配線と層間絶縁膜の間に配置することで、Cu拡散の問題は解決されている。

したがって、バリアメタル材料に求められる項目は、Cuの拡散防止である。そこで、図6に示すようにSiウェーハ上にバリアメタル層およびCu層をスパッタにて成膜し、相互拡散試験を実施した。

図6 相互拡散試験サンプル

図6 相互拡散試験サンプル

相互拡散試験は、超高純度Arガス中での350℃加熱処理(30min)である。それぞれの層中への相互拡散の有無はSIMS (Secondary Ion Mass Spectrometer)にて評価した。バリアメタル層としてNiおよびNiF2を準備した。NiF2は、Niスパッタ後にフッ化処理することで準備した。バリアメタル層の膜厚は50nm、Cu配線層の膜厚は100nmとした。図7にバリアメタル層としてNiを、図8にNiF2を成膜したサンプルの相互拡散試験結果を示す。Niの場合では、試験後にNi層中へのCuの拡散が明らかに確認でき、NiではCuに対する拡散防止効果が無いことが分かった。

図7 Niを成膜したサンプルの相互拡散試験結果(上) / 図8 NiF2を成膜したサンプルの相互拡散試験結果(下)

図7 Niを成膜したサンプルの相互拡散試験結果(上) / 図8 NiF2を成膜したサンプルの相互拡散試験結果(下)

一方、NiF2の場合では、試験前後でNiF2層中のCui濃度の増加は認められない。NiF2層中へのCuの拡散は間違いなく防止できている。同様に、Cu層中のNi濃度の増加も認められない。すなわち、NiF2はCuに対する拡散防止およびCu中へのNi拡散防止効果を有している。

したがって、NiF2はCu拡散防止のためのバリア膜として使用可能であり、バリアメタル材料として有用である。また、バリア膜への薄膜化に対する要求を考慮し、10nmまで簿膜化したNiF2においてもそのバリア性が健在であることを実証し、CF膜に対しても良好なバリア性を示すことを明らかにした。

さらに、NiF2はTaNに比べて抵抗率が1/6程度低いため、超LSIの高速化を妨げている主な要因であるCu配線を通る電気信号の伝播遅延をさらに改善可能であることを明らかにした。

5. まとめ

超高純度ガス供給技術を応用した超高感度分析技術を適用することで、完全に制御された環境下において実施された分析結果に基づき有機材料の分解を抑制するための対策となる指針を定量的に決定することが可能であることを実証できた。これにより、プロセス上の問題点に対する改善策を提案でき、その最適化案を示すことが可能になる。

さらに、本稿では割愛したがディスプレイ用光学フィルムとして用いられている樹脂材料の射出成形プロセスについて検討し、成形機内の残存酸素,水分ガス濃度および溶融樹脂材料が接触する固体表面が示す触媒作用による分解挙動への影響を明らかにすると共に、溶融樹脂材料の分解促進を抑制する製造プロセスを新たに提案した。

その結果、最終的に射出成形機本体の大きさおよび重さを約45%縮小化および軽量化(93tから50t)可能となることを明らかにした。

以上、本論文は、有機材料で構成される部材の製造プロセス時の加熱工程における分解・解離の要因および機構を解明する超高感度分析技術を確立し、各種有機材料に対して適用可能であることを実証すると共に、それぞれの有機材料に対して最適な製造プロセスを明らかにしたものである。また、この超高感度分析技術は、半導体・平板デイスプレイ分野のみならず、あらゆる分野に使われている有機材料に対して有効であり、幅広い分野への応用・展開が大いに期待できる。

(注)参考文献

1)
H. Kudo, S. Takeishi, R. Shinohara and M. Yamada, "Characteristics of Plasma-CF Films for Very Low-k Dielectrics," Dielectrics for ULSI Multilevel Interconnection Conference, Session IX, Part I, pp. 85-92. 1997.
2)
M. Schaer, F. Niiesch, D. Berner, W. Leo and L. Zuppiroli, "Water Vapor and Oxygen Degradation Mechanisms in Organic Light Emitting Diodes," Advanced Functional Materials, No.2, pp. 116-121, 2001.
3)
T. Ohmi, "Scientific Semiconductor Manufacturing Based on Ultraclean Processing Concept,"
International Conference on Advanced Microelectronic Devices and Processing, pp. 3-22, 1994.
4)
大見 忠弘,「ガスサイエンスが拓くプロダクト・イノベーション」, リアライズ社, 1996年.
5)
Y. Shirai, M. Narazaki and T. Ohmi, "Cr2O3 Passivated Gas Tubing System for Specialty Gases," IEICE Trans. Electron., Vol.E79-C, No.3, pp. 385-391, 1996.