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半導体製造装置システムの表面不働態処理技術

北野真史

北野 真史Kitano Masafumi

株式会社フジキン
つくば先端事業所
博士(工学)

  • 1993年 静岡大学 工学部 材料精密化学科 卒業
  • 1995年 静岡大学 大学院 工学研究科 材料精密化学専攻 修了
  • 1995年 株式会社 フジキン 入社
  • 2002年 東北大学 大学院 工学研究科 電子工学専攻 博士課程 修了

2005年1月28日発刊
「ながれをこえて」Vol.4で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

1. はじめに

情報家電用のシステムLSIは製品サイクルが短いために、1製品あたりの通算生産台数が数十万から数百万台程度になると考えられ、従来の数万枚/月の少品種大量生産対応のラインでは、超低価格なシステムLSIを短期間に生産することは極めて困難となる。2~3千枚/月のウェーハ生産で十分に利益があがり、段階的に拡張できる段階投資型半導体生産方式がこれからの必須技術になる。

この要求とは裏腹に、現在の半導体製造装置のプロセスチャンバは単機能なため、小規模生産ラインは全く構築できない状況にある。言い換えると一台のプロセスチャンバで複数のプロセスを処理しなければ小規模生産ラインの実現は難しいことになる。

一台のチャンバで複数のプロセスを処理する場合、前のプロセスの痕跡が残っていては設計通りのプロセスは行えない。プロセスガスおよぴ反応副生成物がプロセスチャンバ内や排気系内に一切吸着,化学反応,堆積しないことが複数のプロセスをワンチャンバで処理するシングルチャンバ/マルチプロセス技術の絶対条件となる。これまでチャンバ内壁を150℃程度に加温することで反応生成物の堆積を抑制できる報告がされている。[1]また、ネットワーク対応システムLSIはその動作速度がGHzクロックのオーダーにまで現在到達している。LSIの動作速度がGHzクロック以上になり、なおかつ低消費電力化を実現しようとすると、電流駆動能力の大きいトランジスタ、すなわち高誘電率ゲート絶縁膜、金属ゲート電極構造MOSトランジスタが要求される。さらに埋め込み絶縁膜に隣接して数μm厚さの金属層を有する、基板抵抗が低い金属層導入SOI基板の導入が求められる。

現在の半導体製造装置や製造プロセスでは、これらを搭載するLSIの製造が困難を極めることが予想される。なぜなら、現状のトランジスタまわりの製造プロセスは、1000℃前後の高温工程による分子反応が基本だからである。

金属基板の導人は、その熱膨張率の問題から、すべてのプロセスを500℃程度以下の低温領域で行う必要があり、これまでの熱プロセスに替わり、プラズマプロセスを主体としたラジカル反応ベースの製造工程へ変わらざるを得ない。

近年、マイクロ波励起による低電子温度高密度プラズマを用いたラジカルベースの反応により、500℃以下の温度で良質なシリコン表面の直接酸化膜,窒化膜を形成する技術が報告されている[2,3]。ラジカルは非常に反応性に富むため、チャンバ内材料はこれらラジカルに対して非反応性のものでなければならない。

発生させたラジカルを消費してもならないし、チャンバ表面と反応して発生した反応生成物が気相中に飛散してもならないのである。

本研究では、耐プラズマ性に優れた表面保護膜として4%のAlを含有したオーステナイト系ステンレス鋼表面に熱力学的に安定なAl2O3不働態膜(膜厚50nm~100nm)を形成する技術を開発した。半導体製造装置システム内表面にAl2O3不働態を形成し、プロセスチャンバからウェーハヘの金属汚染,半導体製造装置システム内へのプロセスガスの解離によるデポ物の堆積,副反応生成物の堆積を一掃し、段階投資型の半導体生産方式を実現する多機能(シングルチャンバ/マルチプロセス)半導体製造装置の内表面処理技術を確立することを目的とする。

2. ステンレス表面へのAl2O3不働態形成

表1に各酸化物・フッ化物の標準生成エンタルピーおよび標準生成自由エネルギー値を示す。Al2O3は他の物質と比較して負側に大きな値を有し、熱力学的に安定な材料であることが伺える。また、Alは典型元素であるため、基本的にはAl2O3という酸化状態しか存在しない。

表1 酸化物・フッ化物の標準生成エンタルピー

表1 酸化物・フッ化物の標準生成エンタルピー

金属と酸素の間で、次のように酸化物MxOyを生成する一般的な反応では、

数式

となり、純金属,金属酸化物の活量を1ととると、⊿G0は式(2)より直接、平衡酸素解離圧と温度に関係づけられる。

また酸素ポテンシャルはpH2/pH2O分圧比に関係づけられ、次式により与えられる。

数式

これらの式より、水索/水分分圧比、温度を制御することにより金属⇔金属酸化物の酸化還元反応が選択可能となる。例えば800℃という温度下では、Alの酸化はH2/H2O雰囲気下で次式の反応により与えられる。FeとCrも同様の式で表される。

数式

PH2/PH2O=1×105で800℃という雰囲気下では(7)式は水分を消費する方向へ平衡が移動する。つまりAlの酸化が起こる。逆に2/3Cr2O3+2H2=4/3Cr+2H2Oなる反応のPH2/PH2Oは4×104と計算され平衡は水素が消費される方向へ移動する。つまりCr2O3の還元が起こる。この原理がステンレス合金の選択酸化で実際に成り立つかを確認した。

図1 Al2O2不働態処理ステンレス表面のXPSデプスプロファイル

図1 Al2O2不働態処理ステンレス表面のXPSデプスプロファイル

図1は10%H2, 1ppmH2O雰囲気(PH2/PH2O=1×105), 800℃下で1時間酸化処理を行ったときの表面XPSデプスプロファイルである。横軸に膜原、縦軸に元素組成比を表す。膜厚はエッチング速度SiO2換算3nm/minで計算した。初期表面のデプスプロファイルは、その化学成分比に従い、最表面にCr,Feの自然酸化膜が成長したステンレス特有のプロファイルを示す。一方酸化処理を行ったものは最表面から30nmにわたりFeやCrを含まない100%のAl2O3不働態が形成されている。ここで表面から深さ方向に対してFeが検出されはじめるまでの膜厚を100%Al2O3膜と定義する。この100%Al2O3が形成される水素/水分分圧比,温度を図2に示す。今回調べた温度範囲は1000℃以下で,水素/水分分圧比は現在のガス供給技術で制御可能な1×109以下の領域である。この図は各金属酸化物の標準自由エネルギー変化と温度の関係を表したものであり1944年にEllinghamによって導入され、RichardsonとJeffesによって発展されたものでエリンガムダイアグラムと呼ばれ、冶金熱力学的に広く使用されている[4]。この図の中で(6)式は左端のH点を基点とする直線群で表され、簡易的に読み取ることができるよう右端にH2/H2O比に応じた目盛が記入してある。塗りつぶした箇所が、100%Al2O3が形成される雰囲気であり、若干のズレはあるものの、おおよそエリンガムダイアグラムに従うことから、種々の合金の選択酸化雰囲気が、この図から読み取れることが示唆される。

図2 l00%Al2O3不働態形成条件(エリンガムダイアグラム))

図1 Al2O2不働態処理ステンレス表面のXPSデプスプロファイル(エリンガムダイアグラム)

次にステンレス表面に形成したAl2O3不働態の特性について述べる。

3. Al2O3不働態の耐プラズマ性

図3にNF3プラズマを照射した時の、イオン照射エネルギーとフッ素原子の深さ方向への入り込み量を示す。プラズマ条件は13.56MHzのRF電源にてプラズマを発生させ、そのRFパワーを調整してVdc値を変化させた。このVdc値にVp≒30Vを加えた値をイオン照射エネルギーとしてグラフ化している。チャンバ内の雰囲気は、Arガス:試験ガスを45cc/min:5cc/min(10%試験ガス/Ar希釈)とし、圧力を20mTorr, プラズマ照射時間を1時間に設定した。グラフから90eV以下ではフッ素の入り込みがイオン照射エネルギーに依存せず約15nmで一定となっていることがわかる。これはフッ素との反応により生成したAlF3表面をフッ素が通過し難いためであると考えられる。100eV以上になるとフッ素の侵入量が増加していくが、これはイオン照射エネルギーが100eV以上になると、Al2O3不働態皮膜のスパッタリングによる消失により、Al2O3自身の不働態膜の効果を示さなくなることによるものである。

図3 NF3プラズマ照射時のイオン照射エネルギーとフッ素の深さ方向への入り込みの関係

図3 NF3プラズマ照射時のイオン照射エネルギーとフッ素の深さ方向への入り込みの関係

Al2O3不働態自身の耐フッ素プラズマ性は、100eVより小さいイオン照射エネルギー値で議論する必要がある。これに対してSUS316L表面等ではイオン照射エネルギーに対して、フッ素の侵入量が指数関数的に増大する。

この反応により生成するFeやCrのフッ化物は蒸気圧の高いもの,水素でエッチングされるものなどがあるため、不働態皮膜としては適さない。また、皮膜が存在する臨界値90eVで200℃までサンプルに温度を印加して、フッ素との化学反応を調べたが、フッ素侵入量の温度依存性は非常に小さいことがわかった。

図4にCl2プラズマを照射した時の、イオン照射エネルギーと塩素原子の深さ方向への入り込み量を示す。グラフ中のAl2O3-AlF3はAl2O3不働態をフッ素プラズマ(80eV)にて最表面をフッ化した試料である。フッ素プラズマによりAl2O3不働態の最表面はフッ素に置換される。

図4 Cl2プラズマ照射時のイオン照射エネルギーと塩素の深さ方向への入り込みの関係

図4 Cl2プラズマ照射時のイオン照射エネルギーと塩素の深さ方向への入り込みの関係

以降この不働態表面についても評価対象とした。イオン照射エネルギー100eV以下では塩素との化学反応を起こさないことがわかった。また100eVのイオン照射エネルギー下で150℃までは耐性を有することを確認した。

また、酸素や水素といったバルクガスプラズマに対して、100eV以下,試料温度200℃以下では一切の化学反応を起こさないことを確認した。

4. Al2O3不働態表面の安定性(非触媒性)

図5 100%Al2O3不働態表面での特殊材料ガスの熱分解特性

図5 100%Al2O3不働態表面での 特殊材料ガスの熱分解特性

図5にAl2O3不働態表面での各種特殊材料ガスの熱分解特性を示す。横軸はAl2O3不働態表面を有する配管の温度,縦軸は配管下流に設置したFT-IRで計測した特殊材料ガスの濃度を表す。特殊材料ガスの初期濃度は100ppmである。水素化物系の特殊ガスの中で、最も低い温度で分解が開始したガスはB2H6で150℃付近であった。続いてAsH3が250℃, PH3が300℃, SiH4が380℃の順で分解が開始した。これら特殊材料ガスの分解に伴い水素の発生が認められた。つまり濃度が減少し始めるポイントより高い温度領域では、配管内表面にSiやP, B, Asといったデポ物が堆積していることを意味している。フッ素化物系ガスとして、チャンバのドライクリーニングで広く使われているClF3についても評価を行った。一般にプラズマレスの装置で用いられ、非常に反応性の高いガスである。このClF3に関しては170℃から分解が開始した。熱分解特性評価後の配管内表面をXPS分析したところ、Al2O3表面がフッ素と反応していることが確認された。水素化物系ガスが熱分解後、配管表面にSi, やP, B, Asを堆積させるのに対して、フッ素化物ガスは熱分解とともに配管表面をフッ化するのである。

逆に言えば、反応性の高いフッ素系ガスに対して、より高温まで安定に供給可能であることが配管の耐食性を示す指標になると言える。一般的に広く用いられているSUS316L鋼やNi基合金等では150℃以下の温度で一部の水素化物系ガスの解離が認められた。Al2O3不働態表面だけが、150℃以下の温度でこれらのガスを解離させることなく安定に供給可能な材料であることが明らかとなった。

5. まとめ

オーステナイト系ステンレス鋼表面に熱力学的に安定なAl2O3不働態膜(膜厚50nm~100nm)を形成する技術を開発した。得られたAl2O3不働態はプラズマ環境下で優れた耐食性を示し、なおかつ150℃以下で種々の特殊材料ガスを解離させる触媒作用を一切示さないことが明らかとなった。本稿では割愛したがアウトガスも非常に少ないことが明らかとなった。

シングルチャンバ/マルチプロセス半導体製造装置システムを実現する内表面処理技術のキーテクノロジーになると考えている。

参考文献

1)
Yasuhiko Chinzei, Takanori lchiki, Ryo Kurosaki, Jyun Kikuchi, Naokatsu Ikegami, Takayuki Fukazawa, Haruo Shindo and Yasuhiro Horiike, Jpn. J. Appl. Phys. Vol.35 (1996) 2472 Part 1, No.4B, 30, (1996)
2)
Masaki Hirayama, Katsuyuki Sekine, Yuji Saito and Tadahiro Ohmi, Technical Digest, International Electron Devices Meeting, pp.249-252, Washington, D.C., December 1999.
3)
Yuji Saito, Katsuyuki Sekine, Masaki Hirayama and Tadahiro Ohmi, Jpn.J.Appl.Phys., Vol.38 Part 1, No.4B, pp.2329-2332, April 1999.
4)
H.J.T.Ellingham,, J. Soc. Chem. Ind. Trans. ,63, pp.125-133 (1944)