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半導体製造用プロセスガスの高精度供給技術に関する研究

永瀬正明

永瀬 正明Nagase Masaaki

株式会社フジキン
大阪ハイテック研究創造開発センター
博士(工学)

  • 1994年 大分大学 工学部 化学環境工学 卒業
  • 1996年 大学大学 大学院 工学研究科 化学環境工学専攻 修了
  • 1996年 株式会社 フジキン 入社
  • 2002年 東北大学 大学院 工学研究科 電子工学専攻 博士課程 修了

2004年1月1日発刊
「ながれをこえて」Vol.3で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

1. はじめに

これからの半導体超LSIは性能向上させるために殆ど理論限界ぎりぎりに設計されることになる。

半導体超LSIの寸法微細化は量産レベルで100nm以下のまさにナノメートル技術の生産に直面しており、いっさいバラツキのない生産技術が不可欠な時代を迎えている。また、ネットワーク対応高性能システムLSIでは個人用途向けに十分な性能機能が最適化されたもので、かつ、携帯電話、デジタルカメラのように顧客の好みの変化が激しくなる。

このような情報家電においては、その生涯生産数が激減するため生産方式は段階的に投資可能な多品種少量生産方式小規模生産ラインに移行していく。

従来行われてきた月産数万枚の一括投資型、少品種大量生産方式ラインでは、超低価格なシステムLSIを生産することが困難となるためである。

現在のプロセスチャンバは単機能であり、フル稼働の処理枚数に対して必要とされる生産数が見合わなくなる。このため装置稼働率を可能な限り高くするため多機能なプロセスチャンバ(シングルチャンバ/マルチプロセス)が、小規模生産ラインでは不可欠となる。

このため装置は徹底的に高性能化し、小型かつ高信頼性を有する装置を具現化しなければならない。このシングルチャンバ/マルチプロセスに対応したガス供給技術について考えてみると、

  • ① 「高純度ガスの安定な供給技術」
  • ② 「ウェーハ表面のガス濃度・圧力の精密制御」

を実現しなければならない。

①については、現在までにウルトラクリーンコンセプトに基づく表面不働態処理1.2)、集積化ガスパネル3)により手元のバルブ操作のみで超高純度ガスの安定なガス供給技術が完成している。

②については、ほとんどのプロセスが枚葉処理で行われ、十分な高生産性を得るためには1つのプロセスを30秒程度で終了しなければならない。すなわち、シングルチャンバ/マルチプロセスでは、極めて短い時間内でウェーハ表面上のプロセスガスの精密な制御が可能な技術が求められる。

従来のようにバルブを開けることによってチャンバ内にプロセスガスを供給しガス濃度が安定してから、プロセスを開始するというやり方では到底高速プロセスを実現することができない。バルブを開いた瞬間からプロセス開始できるガス供給技術が求められてくる。

また、半導体LSIはその機能発現部に強誘電体膜、高誘電率膜を導入しようとしている。これまで単結晶あるいはアモルファスであった所に多結晶材料の導入がされてきている。

これらの材料は、薄膜でその機能を最大限生かそうとすると界面からの初期成膜が重要となってくる。界面からの数原子層の成膜でその特性が決まってしまうからである。

たとえば、シングルチャンバ/マルチプロセス時代に強誘電材料を20-30原子層成膜するためには1秒で1原子層を成膜することになる。プロセスガスを供給し始めてから瞬時にウェーハ上でのガス組成が一定となる生産技術が強く求められるのである。

本研究では、プロセスチャンバ内ガス濃度を精密に制御可能なガス供給技術について研究を行った。

現在に比べて圧倒的に短いプロセス時間の要求に対して、プロセスの結果に影響する装置内ガス組成・圧力を完全に制御する技術を確立することを目的とする。

2. 圧力調整式流量制御機器(フローコントロールシステム:FCS®

チャンバ内ガス濃度及び圧力を決定するうえで重要なコンポーネントとなるのが流量制御器である。

流量制御器がウェーハ上のガス組成を決定し、反応の特性あるいは膜の性質を決定するからである。

シングルチャンバ/マルチプロセスに対応する流量制御器として圧力調整式流量制御器の開発を行った(図1)。

図1 圧力調整式流量制御器(FCS®)

図1 圧力調整式流塑制御器(FCS®)

このFCS®は、オリフィスの上流圧力が下流圧力の2倍以上あるとき、オリフィスを流れ出るガスは音速となり、その流量はオリフィス上流の圧力のみに依存することを原理としている。

従来の流量計測方式ではなく圧力制御方式により流量を検知しているので、流量精度がよいだけでなく、頻繁なバルブ操作を行われる条件において流量に揺らぎが生じない特性を有している。

この結果、上流の圧力変動に影響を受けることなく精密に流量を制御することができ、また、流量制御器下流のバルブが開いた瞬間から流量の精密な制御が可能となった。

従来の流量制御器では、下流のバルブを閉じた状態で、未制御容量が存在し、下流バルブを開けるとこの未制御容量が一挙に流れ出しオーバーシュート現象を引き起こしていた。

このため、プロセスを行うためにはチャンバ内濃度を安定させるため時間がかかった。

FCS®では圧力調整機構を流量制御器自体に兼ね備えているため、下流バルブを閉めた状態においても未制御容量は存在しない。下流バルブが開いた瞬間から制御されたガスを正確に供給することが可能である。

シングルチャンバ/マルチプロセスを具現化するためには、精密な流量制御が可能な圧力調整式流量制御器が不可欠となる。

3. チャンバ内プロセスガスの精密制御方式4)

この圧力制御式流量制御器を用いて、プロセスチャンバ内の圧力を揺らがせることなくガス濃度を瞬時に切り替えるガス制御方式について検討を行った。

チャンバ容量V、圧力P及びガス供給流量fとするとき、プロセスチャンバ内ガス濃度Cの経時変化は、

数式

となり、τを時定数とする指数関数で表される。

すなわち、チャンバ内のガス置換は、プロセス条件(V、P、f)によって決定されるため、チャンバ容量及び圧力の条件によってはチャンバ内ガス濃度が定常状態に達するまでに時間がかかる場合がある。シングルチャンバ/マルチプロセスの生産方式では高速化が求められるため、チャンバ内ガス濃度を高速に置換しなければならない。

チャンバ内ガス濃度の置換の速さを表す時定数τは、チャンバ圧力Pおよびチャンバ容量Vは装置あるいはプロセス条件に起因する値であるため、ガス供給方式としてプロセスガス流量のパルス状制御方式について検討を行った。

すなわち、バルブ操作によってステップ状にプロセスガス流量を切り替えて供給するのではなく、プロセスガスに切り替える初期段階において、定常状態流量に対して過剰流量fmaxを供給することによって、より高速にチャンバ内ガス濃度を切り替えることが可能となる(図2)。

図2 チャンバ内プロセスガスの精密制御

図2 チャンバ内プロセスガスの精密制御

また、プロセスガスと同時に流しているキャリアガス流量を全流量が一定となるように制御することでチャンバ内圧力変動を抑えることが可能となる。また、過剰供給する時間(パルス保持時間t')は、チャンバ容量、圧力及び定常状態流量f0によって決定される時定数τと過剰供給流量fmaxで表される。

数式

過剰供給流量fmaxを変化させて、実験的にパルス保持時間t'を求めた結果、実験値と計算値が一致することが確認された(図3)。

図3 パルス保持時間

図3 パルス保持時間

すなわち、与えられたプロセス条件から過剰供給流量fmax及び保持時間t'を正確に制御することによって、チャンバ内プロセスガスの高速ガス置換を実現することが可能となる。

また、ガスパネルから供給するプロセスガスは配管を介してプロセスチャンバに供給する。この配管が存在する場合の圧力損失及びチャンバ内ガス濃度の立ち上がりの遅延について調べた。

ガスパネルとチャンバ内に存在する配管は、径が細くコンダクタンスが小さくなるため、ガスパネル直近では圧力が高くなる。チャンバ内のガス組成の精密制御に不可欠となるFCS®では、圧力を調整することにより流量を制御しているため、配管による圧力損失が大きくなる場合には流量制御範囲が狭くなることがある。

さらに、検討を行ってきたパルス状ガス制御の場合、定常状態流量f0に対する過剰供給量fmaxが大きいほど、すなわち過剰供給流量fmaxは流量制御器のフルスケール100%に設定し、定常状態流量f0を可能な限り低い設定値にすることでチャンバ内のガス濃度の高速置換が可能となる。

このため、圧力流量制御器の制御範囲の下流圧力依存性を考慮し、定常状態流量f0を選定する必要がある。実際の装置からガスパネルまでの圧力損失を測定した結果(配管:径9.52mm、長さ10m)、過剰供給量fmax/定常状態流量f0=10倍となり、時定数はパルス状制御しない場合に比べて1/10になることが分かった。

また、配管は圧力損失であると同時に容量を持つためチャンバ内ガス濃度の立ち上がりの遅延が発生する。

この遅延に関しては、ガス流れを等価回路に置き換えてシミュレーションした。

この結果、シミュレーションによる計算値と実験値(配管:径9.52mm、長さ4m及び10m)はほぼ一致していることが確認できた。配管が存在する場合にも、パラメータからチャンバ内ガス濃度の経時変化を求めることが可能である。

4. 液体材料ガス供給技術

強誘電体膜・高誘電率膜等のMOCVDプロセスをターゲットとして液体材料ガス供給システムについて検討を行った。

これらの材料の多くは常温で液体であるため、気化することによってプロセスチャンバ内に供給する。

しかし、従来行ってきた気化器を用いた供給では材料の分解・析出により、安定に供給することが不可能であった。

このため液体材料ガスの熱分解特性及び析出現象を実験的に明らかにした。まず、ペンタエトキシタンタルTa(OC2H5)5をテストガスとしてステンレスチューブ(SUS316L-EP)内に供給し、FT-IRにて検出した。この結果、Ta(OC2H5)5の分解温度は250℃であることが分かった(図4)。

図4 Ta(OC2H5)5の熱分解特性

図4 Ta(OC2H5)5の熱分解特性

また、Cr2O3あるいはAl2O3の不働態膜を覆ったサンプルチューブでは、SUS316L-EPより高い温度で分解することが明らかとなった(Cr2O3不働態膜及びAl2O3不働態膜:310℃)。さらに液体材料ガスの析出温度について調べた結果、ペンタエトキシタンタルは150℃以下で配管内での析出が観察された。

これらの結果から、液体材料ガス供給系は150~250℃で保つ必要があり、Cr2O3不働態膜及びAl2O3不働態膜で保護することによって、より高温で安定に供給することであることが分かった。

これらの実験結果から、液体材料ガスの安定供給の可能性について検討した。この結果、液面レベル及びタンク内圧力を制御したバブリング方式により安定な材料の気化が可能であることが分かった。

この気化器の下流に圧力調整式流量制御器を設置することによって、チャンバ内ガス濃度の高速置換が可能となる。

界面での組成の精密な制御が重要となる強誘電体膜あるいは高誘電率膜のMOCVDプロセスに適応できると考える。

5. まとめ

多品種少量生産型小規模生産ラインに対応したガス供給技術について検討を行った。

装置内容量、プロセス圧力及びガス供給流量(定常状態)等プロセス条件が決定すると、プロセスガスをパルス状ガス制御方式にて供給することで、チャンバ内プロセスガスの高速ガス置換が実現可能となった。

現在に比べて圧倒的に短いプロセス時間の要求に対して、プロセスの結果に影評する装置内ガス組成・圧力を精密制御することが可能となった。

文献

1)
N.Ikeda, Y.Shirai, T.Ohmi, and M.Yamaji, "Highly reliable fitting for gas delivery systems, J. Vac. Sci. & Technol. A, Vol.16, No.1 , p181,1998.
2)
T.Ohmi, M.Yoshida, Y.M atudaira, Y.Shirai, O. Nakamura, M.gojyuki and Y.Hashimoto, "Development of a stainless steel tube resistant to corrosive Cl, gas for use in semiconductor manufacturing," J. Vac. Sci. & Technol. B, Vol.16, No.5, 1998.
3)
T.Ohmi, S.Miyoshi. Y.Shirai. T.Kojima and Y. Mizuguchi, "Metal Fume-Free Welding Technology for Advanced Semiconductor Grade Gas Delivery System, "]. Vac. Sci. & Technol., Vol. 14 2, No. 7, p2362,1995.
4)
M.Nagase, M.Kitano, Y.Shirai and T.Ohmi, "Precise Control of Gas Concentration Ratio in Process Chamber", Jpn. J.Appl. Phys., Vol.40, pp.5168,2001