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超高純度ガス供給系に関わる特性について

池田信一 山路道雄

池田 信一 / 山路 道雄Ikeda Nobukazu / Yamaji Michio

(池田)
株式会社フジキン
大阪ハイテック研究創造開発センター 代表技師 博士(工学)

  • 1978年3月 富士金属工作㈱(現 (株)フジキン)入社
  • 1998年3月 東北大学にて学位取得・博士(工学)
  • 2001年4月 ㈱フジキン参事付 大阪ハイテック 研究創造開発センター責任者就任
  • 2009年3月 ㈱フジキン創造研究開発本部長就任
  • 2012年7月 ㈱フジキン取締役特別待遇就任
  • 2013年7月 ㈱フジキン取締役就任
  • 2016年7月 ㈱フジキン常務取締役就任

(山路)
株式会社フジキン
大阪柏原事業所 準参事

  • 1976年3月 熊本大学工学部 生産機械工学科卒
  • 1976年3月 富士金属工作㈱(現 (株)フジキン)入社
  • 1984年8月 大阪柏原事業所に転勤。半導体用バルブ・継手を担当。
  • 2011年4月 ㈱フジキン取締役就任
  • 2014年3月 東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻 後期博士課程修了
  • 2014年7月 ㈱フジキン常務取締役就任

2001年6月5日発刊
「ながれをこえて」Vol.2で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

はじめに

半導体製造において信頼性、均一性、再現性を高め、極低不良率を達成するためにはScientific Semiconductor Manufacturing1,2)の再現、即ち勘や経験に頼るのではなく学問に裏付けられたゆらぎのない半導体製造技術の確立が不可欠である。これを達成するための3原則は、

  • 1. Ultraclean Wafer Surface(ウエハ表面のウルトラクリーン化)
  • 2. Ultraclean Process Environment(プロセス雰囲気のウルトラクリーン化)
  • 3. Perfect Parameter Controlled Process(パラメータが完全に制御されたプロセス)

である。

超高純度ガス供給系に対するウルトラクリーンテクノロジーの要件として、東北大学大見教授は、

  • 1. Particle Free
  • 2. External Leak Free
  • 3. Dead Space Free
  • 4. Outgas Free
  • 5. Effective Area Minimum
  • 6. Error Operation Free
  • 7. Corrosion Free
  • 8. Catalytic Behavior Free

の8項目を掲げられた。

これらの要件を満たす各種単体機器が1985年頃から開発されてきている。従来の機器と大きく異なる点は付着残留パーティクルやコンタミネーションを無くすという観点から接ガス面が鏡面仕上げとなり洗浄グレードが大幅に向上した3)

外部リークが存在すると逆拡散により必ず汚染につながるということから外部シールの方式は樹脂シールから全てメタルシールに変わった(樹脂製ガスケットやOリング等ゴム材質によるシールの場合、透過リークが存在するため、外部リークフリーとはならない)。

また、超高純度ガス供給システム構築手段として、ウルトラクリーン溶液技術4,5)や継手関係6-8)の開発が進められた。ガス供給系に共通した課題である水分の枯れ特性に対しては、吸着水分の活性化エネルギーが非常に低いので、室温のパージで1原子層目の吸着水分もパージ可能というクロム不働態処理9,10)が開発された。

クロムの拡散係数がオーステナイト系に比べ4桁大きいフェライト系ステンレス鋼を採用することで、溶接部の100%クロム不働態処理技術11)が1994年に開発された。

これにより現在はガス供給系全体の100%クロム不働態処理が可能となっている。100%クロム不働態処理は優れた水枯れ特性の他、優れた耐食性と非触媒性を合わせ持った表面処理技術である。

本報では超高純度ガス供給系に関わる各種特性を紹介し、300ミリウエハ時代に向けた超高純度ガス供給技術についてまとめる。

1. 単体バルブのガス置換特性

ガス置換特性評価とは、供試品を通過するガス濃度が100%からどのように異なったガスに置換していくかを測定したものである。単体機器のガス置換特性を四重極ガス質量分析計(以下Qマス)を用いて測定する実験配管図を図1に示す。

構造の異なるバルブのガス置換特性結果を図2に示す。横軸は時間、縦軸はヘリウムのイオン強度から換算したヘリウムの濃度を示す。

図1 ガス置換特性実験配管図(左) / 図2 バルブとフィルターのガス置換特性(右)

図1 ガス置換特性実験配管図(左) / 図2 バルブとフィルターのガス置換特性(右)

ガス置換時の流量は10cc/min.である。検出限界は約10ppmである。面間寸法を同じにした1/4インチのストレートチューブ(外径6.35mm、肉厚1.0mm)と小型ダイレクトダイヤフラムバルブ(Cv=0.13)のガス置換特性はほとんど差がないことが解かる。

このバルブは1/4インチチューブの一部と見做せる程のガス置換特性を持っている。すなわち、このバルブを用いる場合にはガス置換特性を気にする必要がないと言える。

次にガス置換の良いものから順にダイレクトダイヤフラムバルブ(Cv=0.33)、外圧タイプのベローズバルブ(Cv=0.38)、バネ有りダイヤフラムバルブ(Cv=0.31)となっている。

ガス置換特性にデッドスペースが悪影響を及ぼすことは明らかだが、バルブ単体で考えた場合、内部のガスの流れ方は単純ではなくデッドスペースの予測を誤りかねない。そのため、残念ながらガス置換特性としては比較評価が必要である。

パージ流量が多くなると濃度の下がり方は早くなるが、グラフに示した傾向は変わらない。

2. ブロック弁の置換特性

対向型のブロック弁の断面を図3に示す。Aにプロセスガスが接続されており、Bにパージガスが接続されているとする。

図3 対向型ブロック弁のデッドスペース

図3 対向型ブロック弁のデッドスペース

まずパージガスで配管が満たされておりプロセスガスを流した場合のデッドボリュームは0.05ccとなる。プロセスガスとパージガスを逆に接続した場合同じ順にガスを流すとデッドボリュームは0.67ccとなる。

大気圧ガス質量分析計(以下APIMS)により1.2L/minの流量でガス置換特性を比較した結果を図4に示す。デッドスペースが0.05ccの場合約40秒で1ppbになるのに比べ0.67ccの場合には200秒以上要している。

ガス置換を考えるときにはデッドスペースに着目すべきである。

図4 デッドスペースのガス置換特性に及ぼす影響

図4 デッドスペースのガス置換特性に及ぼす影響

3. パージ手法によるガス置換特性

バルブやマスフローコントローラ、圧カセンサーにより組み上げられたデッドボリュームを持つガス置換特性の良くない1スティックの連続パージ(パージ流量は1.2L/min.)とサイクルパージ(下流からエジェクターで60torrに5秒間排気、上流から2kgf/cm2のアルゴンガスで5秒間パージのサイクル。測定時は連続パージに切り替え、ピーク濃度をプロット。)による置換特性をAPIMSで調べた結果を図5に示す。

図5 デッドスペースが存在するガス系における連続パージとサイクルパージの比較

図5 デッドスペースが存在するガス系における連続パージとサイクルパージの比較

サイクルパージ後の濃度はC=(P1/P2)n
(C:nサイクル後の濃度、P1:減圧時の絶対圧力(torr)、P2:加圧時の絶対圧力(torr)、n:サイクル数)で計算できる。

この実験におけるnサイクル後の計算濃度はn=1スペース2.63%、n=2スペース692ppm、n=3スペース18.2ppm、n=4スペース479ppb、n=5スペース12ppbとなり、実験値とほぼ合致する。

ガス置換特性の優れた単体機器を用いた場合の1スティックを図6に、そのガス置換特性を図7に示す。ガス流量は1.2L/minと0.4L/minで比較しているが差は小さい。すなわち、ガス置換特性に対するパージ流量の影響は大きくない。上流部のV2の上流にバルブを1台追加して故意に1.2ccのデッドボリュームを設けるとガス置換特性が非常に悪くなることが解かる。

図6 ガス置換特性、ドライダウン特性測定用1スティック

図6 ガス置換特性、ドライダウン特性測定用1スティック

図7 1スティックのガス置換特性

図7 1スティックのガス置換特性

原料ガスとパージガスの切り換えラインは必ずどこかに盛りこまなければならない。

デッドスペースは大小に関わらずガス供給系から排除すべきであるが、実際には必ずどこかにできる。そのため、プロセスガスはユースポイントにできるだけ無駄なく高純度で供給できるようデッドスペースフリーな設計とし、パージラインはデッドスペースを最小にする工夫と共に単純なパージだけでなくサイクルパージ等ありとあらゆる手段を使って短時間にガス置換を行なう手立てを考えるべきである。

4. 単体バルブのドライダウン特性について

図8にダイレクトダイヤフラムバルブの各種弁シート材質と表面処理を変えた場合のドライダウン特性(水枯れ特性)を示す。

図8 各種シート材質のダイレクトダイヤフラムバルブのドライダウン特性

図8 各種シート材質のダイレクトダイヤフラムバルブのドライダウン特性

高温用バルブのシート材質としてポリミド樹脂は有効だがドライダウン特性が際立って悪い。次に同じく高温用途に用いられるPFA樹脂シート品が続く。最も良かったのはオールメタルバルブのクロム不働態処理品である。

標準品として使われているPCTFE樹脂シートのバルブは、オールメタルバルブとほとんど差がなく3時間のパージで0.3ppb前後である。ポリミド樹脂を使ったバルブを長時間ドライダウンさせた後、30分間クリーンルーム内に放置し、再測定を実施したが、結果はこの測定結果と変わりがなかった。ポリミド樹脂を使ったパーツを使用する場合に絶対に大気にさらさないという注意が必要だ。逆に大気にさらされる可能性のある部分にはポリミド樹脂は使用すべきでない。

5. ガスシステムのドライダウン特性について

図9にタングステンCVDのガスフローチャートを示す。バルブやマスフローコントローラはSUS316L製のオールメタルタイプで内面は100%クロム不働態処理を施した。配管や溶接継手にはフェライト系ステンレスのFS-9を用い溶接部も含め100%クロム不働態処理を施した。バルブは集積タイプで使用したチューブの全長は約4mである。

図9 W-CVDガスフロー図

図9 W-CVDガスフロー図

このバルブ27台とマスフローコントローラ6台で構成されるガスシステムの入口と出口をそれぞれ1本にまとめてトータル流量5L/minでドライダウン特性を取った結果を図10に示す。

図10 W-CVDガスシステム連続パージによるドライダウン特性

図10 W-CVDガスシステム連続パージによるドライダウン特性

トータル約2時間の室温パージで1ppbを切ることができた。フィルターや逆止弁を含む一般的なガスシステムのドライダウン特性は10時間で100ppbが切れるかどうかといったオーダーでありクロム不働態処理品の優れたドライダウン特性を示す結果と言える。

このガスシステムを十分にパージした後、ガスシステムにアルゴンガスを1週間(168時問)封入し開封直後のドライダウン特性を取った結果、ピーク濃度が2.3ppbで約20分のパージで1ppbを切った。一般に工場が長期休止する場合、特殊材料ガスラインは不活性ガスヘの置換が行なわれているが、これなら工場を休止する場合でもガスを置換する必要はない。

6. より正確でシンプルな流量制御を目指して

現在流量コントロールはマスフローコントローラ(以下MFC)に頼っている。MFCの基本的な構造はガスの流れを分流する層流素子部と分流された細管のバイパス部に取り付けられた流量センサ一部、そしてその下流に設けられた流量コントロール弁で構成されている。

流量センサーは、一般にサーマルセンサーと呼ばれるもので2本のコイルが細管に巻き付けられており上流側は加熱されている。ガスが通過したときにガスがこの熱を奪い下流側のコイルに熱を伝える。この熱によりコイルの抵抗が変化するのを利用して流量に換算している。

この制御系においてセンサ一部がコントロール弁の上流にあるため、もしMFCの上流で圧力変動が有る場合には流量コントロール不能となる。そのため、必ず圧力調整器が上流に設置されている。センサーが熱伝達によるためMFCの設置方向による精度の誤差(サーマルサイフォン現象)の問題を抱えている。また、バイパス部の細管や層流素子部は複雑な形状をしているので100%クロム不働態処理が困難であった。

図11に示すように圧力制御による流量コントロール弁(以下FCS®)はコントロールバルブとオリフィス及びその間に設置された圧カセンサーからなる。オリフィス上流の絶対圧力をP1、下流の絶対圧力をP2としたとき、P1>2×P2(正確には臨界膨張条件)が満たされればオリフィスを通過するガスが音速となり一定となるので流量は圧力P1に比例する。よって、このシステムでは圧力センサーでP1をモニターしP1が入力信号と一致するようコントロールバルブの開度を調整するシステムとなっている。

図11 FCS®構成図

図11 FCS®構成図

図12にFCS®の断面構造を示すが、流路は非常にシンプルでガス置換特性に優れると共に内面のクロム不働態処理も問題なく行なえるためドライダウン特性にも優れている。

図12 圧力制御式流量コントロール弁

図12 圧力制御式流量コントロール弁

図13に示すフローチャートに添って上流の圧力を1kgf/cm2と3kgf/cm2に変動させたときのMFCとFCS®の出力信号と下流に設けた差圧センサーの出力を図14に示す。

図13 上流圧力の変動による流量変動テストフロー図

図13 上流圧力の変動による流量変動テストフロー図

図14 上流側圧力変動による流量変化

図14 上流側圧力変動による流量変化

MFCでは供給圧力が上昇するとセンサー出力は上昇する。よって流量調整弁が閉方向にいくため実流量は滅少する。次にセンサーが逆の指示を示し流量は安定域になる。この時間に約1秒弱を要している。圧力が低下した場合には逆の応答を示し実流量は一瞬増加した後設定流量になる。FCS®では一切流量変動は発生しない。

このFCS®において、下流側にバルブを取りつけた場合のガスの流れを考える。バルブを閉じると圧力が上昇してFCS®コントロール弁が閉となりコントロール弁下流から下流のバルブの間は、制御圧力が封入される。バルブを開にするとオリフィスとバルブの間に閉じ込められた制御圧力分のガスがオーバーシュート分として流れ出る。

このボリュームは、オリフィスと出ロバルブの内容積に関係しているため、この部分の内容積を減らせばこのオーバーシュートは解消できる。即ち、バルブシートの直近にオリフィスを持ってくるとバルブの開閉操作により、一切のオーバーシュートもなく正確な流量コントロールができる(図15)。

図15 過渡応答対策流量制御弁

図15 過渡応答対策流量制御弁

このことはMFCでは原理的に不可能である。また、FCS®の制御方式から上流の圧力変動に全く影響を受けないことから従来パネルごとに取り付けられてきた圧力調整器は必要でなくなった。

7. 集積化ガスシステムについて

集積化ガスシステムとは、サーフェイスマウント方式として、次世代300ミリウエハ時代に向けガスパネルを極力小型化しようとする流れに応えるもので、単体機器を直接ブロックで接続することにより構築される(図16)。

図16 ガス集積化システム

図16 ガス集積化システム

集積化することで面積が約25~50%に縮小できる。ガス系の面積を縮小できるということはガス系の筐体が小さくでき、ダクトも細径となり、フレッシュエアーの排風量、排気ファンも全て小型にできるためトータルの省エネルギーにもつながる。

メンテナンスとして各単体機器を交換する場合、従来のガス系では付近のブラケットや周囲の配管を緩めたりしないと交換できなかったが、集積化タイプでは両端のボルトを緩めて新しいものと交換するだけなので通常数分以内に行える。

メンテナンスのときには接ガス部を大気に触れさせないようパージしながら行なわれるが、短時間になるということはパージが少なくて良いというだけでなく、大気に触れる可能性が低くなった点が重要である。

8. まとめ

300ミリウエハ時代を目前にして、ガス供給系のウルトラクリーン化はますます重要となってきている。

ガスの置換特性はガス系設計、単体機器の構造といったハードだけの問題でなく、パージ手法といったソフト面での検討も必要である。ガス供給系においてドライダウン特性は腐食によるメタルコンタミネーションとの関係から非常に重要である。

クロム不働態処理を施し、FCS®を採用した集積化ガスシステムは、次世代の超高純度ガス供給システムに不可避のものとなるであろう。

参考文献

1)
T. Ohmi, Extended Abstracts. The International Symposium on Semiconductor Manufacturing Technology, pp. 3-50, Tokyo, 1992
2)
T. Ohmi, International Conference on AMDP (Advanced Microelectronics Devices and Processing), pp. 3-22, Sendai, 1994
3)
N. Ikeda, Y. Machii and A. Morimoto, J. of Vac. Soc. of Japan, Vol. 40, No. 7, pp. 601-606, 1997
4)
T. Ohmi, S. Miyoshi, Y. Shirai, T. Kojima and Y. Mizuguchi, J. of Electochem, Soc., Vol. 142, No. 7, pp. 2362-2372, 1995
5)
S. Miyoshi, T. Suenaga, K. Kawada, T. Ohmi, Y. Mizuguchi, Ultra Cllean Technology, Vol. 5, No. 5/6, pp. 59- 63, 1993
6)
N. Ikeda, M. Yamaji, T. Shinohara and T. Ohmi, Proce. of Microcontamination Conference 93, pp. 616-624, San Jose 1993
7)
N. Ikeda, M. Y amaji, T. Shinohara and T. Ohmi, Technical Report of IEICE, SDM 95-107, pp. 35-41, 1995
8)
N. Ikeda, Proce. of Cleanrooms 96 West, Session 602, pp. 78-86, San Jose, 1996
9)
T. Ohmi, A. Ohki, M. Nakamura, K. Kawada, T. Watanabe, Y. Nakagawa, S. Miyoshi, S. Takahashi and M. S. K. Chen, J. Electrochem. Soc., Vol. 140, No. 6, pp. 1691-1699, 1993
10)
S. Takahashi, S. Miyoshi, T. Kojima, T. Koyama and T. Ohmi, Proce. of Microcontamination Conference 93, pp.596- 605, San Jose 1993
11)
Y. Shirai, T. Kojima, S. Takahashi, S. Miyoshi, M. Narazaki and T. Ohmi, Proce. of 21st Symp. on ULSI Ultra Clean Technology, pp. 366-375, Tokyo, 1994