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可視光応答性金属錯体を利用した有機-無機ナノハイブリッド光触媒の創製

大和義昭

河嶋 将慈Kawashima Masayoshi

株式会社フジキン
大阪ハイテック研究創造開発センター
博士(工学)

  • 2008年 大阪大学工学部応用理工学科卒業
  • 2010年 大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻マスター修了
  • 2010年 株式会社フジキン入社
  • 2014年 大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻ドクター修了

概要

可視光を吸収する有機金属錯体を無機マトリックスへ固定化した光触媒の開発を行った。金属錯体は酸化還元能を有し、グリーン・ケミカル合成に有能な物質であることから、化学工業プロセスの発展に寄せられる期待は大きい。しかしながら、化学的に不安定、再利用が困難という問題点がある。

そこで、これらの金属錯体をナノ構造を有する無機材料と複合化させることで分離・回収を可能とする光触媒の合成を試みた。

各種キャラクタリゼーションより、構築した光触媒の構造解析を行い、ナノ空間場が錯体へ及ぼす影響について評価を行った。光増感能を有する金属錯体は発光現象を示し、その活性化状態を利用した化学反応の促進に成功し、さらに担体との相乗効果も示唆する結果を得た。

これらの実験より発光強度と光触媒活性との間に相関関係があることを明確にし、様々なプロセスに応用できることを実証した。

Chapter 1:General Introduction

われわれが抱える環境問題やエネルギー問題について、その解決策としてクリーンで無尽蔵な光エネルギーの利用が望まれており、その中でも光触媒の有用性について提言した。

光触媒として一般的に知られている酸化チタンは紫外光しか利用できないという問題点があるが、金属錯体には可視光にも応答する特徴がある。

この金属錯体の光特性および触媒を固定化するマイクロポーラス材料についてそれぞれの化合物が有する特異的な性質、また金属錯体を利用した種々のケミカル反応の背景について記述した。また、本論文の目的・各章の概要を述べた。

Figure1

Chapter 2:Photocatalytic Properties of Tris (2,2' -bipyridine)ruthenium(II) Complexes Encapsulated within Zeolite Y Supercages Exchanged Alkali Metal Cations

無機担体の一つであるゼオライトは規則的な細孔構造や高表面積を有することから、ミクロ分子環境場を提供する分子反応容器としての役割を発揮する。

電荷の補償をするためにゼオライト中にカチオンが存在し、その交換カチオン種を選択することで、細孔内の空間体積や静電場といった分子環境場を任意に制御できる。

本章では、光増感剤として知られる[Ru(bpy)3]2+錯体をゼオライト細孔内へ導入し、交換アルカリ金属カチオン種(Li+, Na+, K+, Rb+, and Cs+)の影響について検討を行った。

また、[Ru(bpy)3]2+錯体の光学特性や光誘起酸化特性について、ホスト‐ゲスト相互作用へのアルカリ金属カチオンの効果について評価を実施した。[Ru(bpy)3]2+錯体のゼオライト細孔への導入は、Fig.1(a)のように“ship-in-a-bottle”法により行った。ICP分析やBET、XRD測定の結果から、Ru錯体がゼオライト細孔に内包されていることを確認した。IRやXAFS、UV-vis、PL測定より、Ru錯体は細孔内では均一系と異なる歪んだ構造で存在していることが分かり、特に大きなカチオン種に交換したゼオライト中にて顕著であった。

調製した光触媒は可視光照射下、分子酸素を酸化剤に用いたスチレン誘導体の光誘起酸化反応に対して触媒活性を示した。

特にLi、Naといった小さなカチオン種が制限された細孔に存在する[Ru(bpy)3]2+錯体の三重項励起状態の寿命と量子効率を改善したことを示唆している。

本章では、触媒種の発光強度と光触媒活性には相関関係があるという知見を得た。

Chapter 3:Design of Ruthenium(II) Complex Photocatalysts Anchored onto Silver Nanoparticles Coated Silica by the Assist of Localized Surface Plasmon Resonance

Chapter 2の結果より、発光強度を増大させることで触媒活性は向上することが期待できる。そこで発光増大の手法として、AuやAg、Cuなどの金属ナノ粒子に見られる特異的な局在型表面プラズモン共鳴に注目した。プラズモン共鳴はナノ粒子内の電子振動と入射光の共鳴によって電場が金属表面に局在化する現象である。その大きな特徴は電場の増強効果にあり、色素や金属錯体の発光の増大に寄与することが知られており、光学分野への応用が行われている。

本章では、Agナノ粒子をシリカコートし、その周囲に[Ru(bpy)3]2+錯体を固定化したコアシェル型光触媒を創製した。

このプラズモン光触媒の調製は、Fig.2(a), (b)に示すようにサイズ制御を行ったAuやAgナノ粒子へゾル‐ゲル法によりシリカコーティングを施し、そのシリカ表面の有機修飾基へRu錯体を固定化することにより実現した。

シリカ層はナノ粒子の保護とAgとRu錯体との距離制御の役割を果たしている。UV-vis測定よりAgナノ粒子由来の光吸収、TEM観察からAgナノ粒子とRu錯体の相互間距離、発光測定によりプラズモン共鳴による発光現象への影響を検討した。Agナノ粒子のプラズモン効果により局在化された電磁場の影響で、Ru錯体の光吸収および発光効率が改善され、エネルギー/電子移動効率が向上することを証明した。

調製したプラズモン光触媒は可視光照射下における酸素を酸化剤とした選択酸化反応へ活性を示し、Agプラズモン効果による発光特性に依存した触媒活性の向上を初めて実現できた。さらに、Fig.2(c)に示すようにプラズモン効果を発現する最適な金属種、相互間距離を実験により明らかにした。

Figure2

Chapter 4:Synthesis and Application to Visible-light-driven Suzuki-Miyaura Coupling Reaction by Ru-Pd Binuclear Complex

金属錯体は配位子設計や多核化を行うことで、特異な反応性の発現や機能化など任意に制御可能である。鈴木-宮浦カップリング反応は2010年にノーベル賞を受賞したことでも有名な反応であり、化学工業においても重要なプロセスの一つである。

通常はPd触媒を用い熱エネルギーによってクロスカップリングを行うが、Fig.3(a)に示すように光増感部位と触媒サイトを結合した[(bpy)2Ru(bpm)PdCl2]2+錯体の合成を行い、光エネルギーにて活性化させることを試みた。Ru-Pd二核錯体において消光が見られたことから、光吸収サイトのRuから触媒サイトである

Pdへの電子移動による電子リッチなPd種の生成が示唆される。クロスカップリングは酸化的付加、挿入、還元的脱離のステップから進行するが、この電子リッチなPdにより律速段階である酸化的付加が促進していると考察している。

実際に鈴木-宮浦カップリング反応を行うと、暗所下や単核同士の反応と比較して、RuからPd種へのリン光消光に起因して可視光照射によるRu-Pd二核錯体の反応では収率が向上した(図3(b))。種々の置換基化合物においても所定の生成物を得ることができ、同様の効果を確認した。

本章では、温和な条件下で光増感部位と触媒サイトを結合した二核錯体を応用した鈴木‐宮浦カップリング反応の実現に初めて成功した。

Figure3

Chapter 5:Catalytic Properties of Iridium and Rhodium Complexes Intercalated into Layered Zirconium Phosphate for H2 Production under Visible Light

水素は低公害である燃料電池自動車の次世代のエネルギー源として、期待されるところが大きい。酸化チタンと白金コロイドによる水分解の研究例は多いが、紫外光しか利用できていないという問題点がある。

そこで、可視光下で進行する[Ir(ppy)2(bpy)]+および[Rh(bpy)3]3+錯体を利用した反応系に注目した。

強りん光発光を示すIrおよび二電子還元能を有するRh錯体をFig.4(a)-(c)のようにリン酸ジルコニウムの層間へ固定化した新規な光触媒の開発を行った。リン酸ジルコニウムは強酸性で、イオン交換サイトを有していることから担持が容易である。XRD測定から錯体内包に十分な層間距離を有していること、BET測定より錯体固定化後に表面積の変化がないことを確認した。UV-vis、XAFS測定から錯体は元の構造を維持していること、発光測定よりIrからRhへの直接的電子移動が起こっていることを明らかにした。

ミクロ環境場に存在するIr錯体の最低三重項MLCTは近接するRh錯体によって酸化的クエンチの影響を受ける。調製した光触媒は水素生成反応においても均一系より高い活性を示し、電子伝達剤不要で水から水素を生成することを確認した。

さらに固定化比や溶媒、犠牲剤、pHなどの最適な反応条件の探索を行った。Fig.4(d)のように最適なIrとRhの固定化比が10:1となり、素生成能はIr錯体の光吸収量に依存することを見出した。

Figure4

Chapter 6:Visible-Light-Induced Hydrogen Evolution with Iridium and Rhodium Complexes Immobilized Layered K4Nb6O17 as a Heterogeneous Photocatalyst

Chapter 5と同様にIr、Rh錯体を担体に固定化した光触媒の調製および水素生成反応への応用を行った。Fig.5(a)-(c)に示すような層状化合物であるニオブ酸カリウムへ内包した触媒を調製し、触媒特性について評価を行った。ニオブ酸カリウムは錯体を内包できる適した面間および電子伝導性を有しており、また担体自身でも水素生成能があることから、錯体と担体の相乗効果が期待できる。

UV-vis、XAFS測定より構造変化なく担持できており、発光測定からIrからRhへ分子間での電子移動が起こっていることを確認した。

IrとRh錯体が近接していることにより直接の電子移動が効果的に起こり、Fig.5(d)から可視光照射下での水素生成反応においてはIrとRhの固定化比が4:1のときに最も高活性であり、リン酸ジルコニウムの場合とは大きく異なる結果となった。均一系と比較して反応効率が改善したことにより、錯体間の直接的な電子移動だけでなく担体を通した電子移動経路の存在を明らかにした。

さらに、再利用試験において脱離や失活することなく光触媒活性を維持していることを確認した。その上、ニオブ酸カリウムをナノシート状に処理することで表面積が増大し、水素生成活性の飛躍的な向上を実現した。

Figure5

Chapter 7:General Conclusion

本論文の総括を行った。光応答性錯体([Ru(bpy)3]2+と[(bpy)2Ru(bpm)PdCl2]2+、[Ir(ppy)2(bpy)]+)およびプロトン還元錯体([Rh(bpy)3]3+)を種々の担体に固定化した新規な光触媒について、光吸収や発光、X線吸収、光触媒活性といった各種特性について評価を行った。

錯体光触媒に関して、均一系と不均一系触媒の特性の違いが明らかとなった。Yゼオライトやリン酸ジルコニウム、ニオブ酸カリウムの制限されたミクロ空間場により錯体構造は影響を受け、リン光発光や電子/エネルギー移動特性は、空間場における重原子効果や電磁場、極性、電子伝導性に寄与する所が大きいことが実験により明らかとなった。よって、励起錯体から触媒種への電子/エネルギー移動はリン光発光の量子収率の向上によって促進される。

この論文は世界で初めて光触媒活性が発光強度に応答して改善されることを証明したもので、この発見が可視光応答性金属錯体の光触媒技術の発展に寄与するものと信じている。

List of Publications

[1] K. Mori, M. Kawashima, K. Kagohara, and H. Yamashita
“Influence of Exchanged Alkali Metal Cations within Zeolite Y cages on Spectroscopic and Photooxidation Properties of the Incorporated Tris(2,2’-bipyridine)ruthenium(II) Complexes”
Journal of Physical Chemistry C, 112 (2008) 19449-19455.
[2] K. Mori, M. Kawashima, M. Che, and H. Yamashita
“Enhancement of the Photoinduced Oxidation Activity of a Ruthenium(II) Complex Anchored on Silica-Coated Silver Nanoparticles by Localized Surface Plasmon Resonance”
Angewandte Chemie International Edition, 49 (2010) 8598-8601.
[3] K. Mori, M. Kawashima, and H. Yamashita
“Visible-light-Enhanced Suzuki-Miyaura Coupling Reaction by Cooperative Photocatalysis with Ru-Pd Bimetallic Complex”
Chemical Communications, 50 (2014) 14501-14503.
[4] K. Mori, J. Aoyama, M. Kawashima, and H. Yamashita
“Visible-light Driven H2 Production Utilizing Iridium and Rhodium Complexes Intercalated into Zirconium Phosphate Layered Matrix”
Dalton Transactions, 43 (2014) 10541-10547.
[5] M. Kawashima, K. Mori, J. Aoyama, and H. Yamashita
“Synthesis and Characterization of Ir and Rh Complexes-supported on Layered K4Nb6O17 as a Heterogeneous Photocatalyst for Visible-Light-Induced Hydrogen Evolution”
Bulletin of the Chemical Society of Japan, 87 (2014) 874-881.