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電子デバイス製造用ガス供給バルブの高性能化に関する研究

山路宮治雄

山路 宮治雄Yamaji Michio

株式会社フジキン
常務取締役 執行役員
わざづくり(技術)部門 技術本部長
博士(工学)

  • 1976年3月 熊本大学工学部 生産機械工学科卒
  • 1976年3月 富士金属工作㈱(現 (株)フジキン)入社
  • 1984年8月 大阪柏原事業所に転勤。半導体用バルブ・継手を担当。
  • 2011年4月 取締役就任
  • 2014年3月 東北大学大学院工学研究科技術社会システム専攻 後期博士課程修了
  • 2014年7月 常務取締役就任

A Study on High Performance Valve Used for Delivering Gas in Electronic Device Manufacture Valve used for gas delivery systems in electronics device manufacture are widely used in semiconductor factory gas piping equipment and gas delivery system for semiconductor tools. Direct Diaphragm Valve is especially essential in delivering gas for semiconductor process because of its cleanliness, controllability and high reliability. Recently, Atomic Layer Deposition (ALD) and deposition processes which use Metal Organic (MO) gases are started to be adopted. This has led to the realization of high response time, high-temperature-tolerant and high durability valves. Based on the aforementioned background, this article is the summary of the result conducted to develop, prototype and evaluate measurement data of high performance (high response, high-temperature-tolerant and high durability) valves used for gas delivery system in electronics device manufacture.

1. はじめに

日本における半導体産業の初期(1970年代後半)から今日まで、一貫して半導体用バルブ設計に携わって来た。その間の半導体産業の発展は目覚ましく、産業の米として多くの産業界の発展のために寄与してきている。集積度が上がるにつれて、ビット単価低減のため微細化、ウェーハ大口径化が進み、それに伴い単体機器である電子デバイス製造用ガス供給バルブの製品仕様も大きく変わって来た。

初めの頃は明確な仕様が示されておらず、装置メーカ、半導体メーカに製品を提供し、実際に使用して頂いて初めて種々の不足仕様を知ると言う状況であった。そのため、製品を開発しても使えないと言う理由で何回も作り直しを余儀なくされた。手探りの状況で製品を出荷していたが、そのうちウルトラクリーン化の概念が打ち出され、それに基づきクリーン化バルブの設計思想を提唱し、各種バルブを開発して来た。より性能をアップしながら、最終的にダイレクトダイヤフラムバルブ(図1)をいち早く開発、製造してきた[1]

図1. ダイレクトダイヤフラムバルブ

図1. ダイレクトダイヤフラムバルブ

現在ではそれが電子デバイス製造用ガス供給バルブの主流となり、世界中の多くの半導体工場のガス配管設備、半導体製造装置のガス供給系の中に使用されている。最近になって新しいプロセスとして原子層堆積法(ALD)が注目されるようになってきた。成膜工程の半分以上がALDプロセスで行われている。ALDプロセスはウェーハ表面で化学反応した反応ガスを表面に吸着させることにより原子層レベルの薄膜を生成する技術で、2種類以上のガス及びガス状の高温原料を反応室に交互に供給して成膜して行くため、新しいバルブ仕様として高耐久、高温耐性、高速応答の要求が出てきた[2]

さらにLED、有機ELに有機金属(MO)材料等の高沸点化合物が広く利用されるようになり300℃、450℃に使用できる高温バルブの要求が出てきた。本論文は半導体業界のバルブの変遷と最近、新たに出てきたバルブへの技術課題を解決し、試作、実験評価を行った成果をまとめたものである。

2. 電子デバイス製造用ガス供給バルブとその変遷

バルブとは、流体(気体と液体)を通したり、止めたり、絞ったりするために、その流体の通路を開閉できる稼働機構をもつ機器の総称である。その歴史は古く紀元前1000年には既にバルブは存在していたと言われており、現在ではあらゆる産業に使用され、われわれの生活と密接な関係があり、社会生活を支える産業に欠かすことの出来ないものになっている。バルブの原理は極めてシンプルであり、用途・仕様により非常に多くの種類がある。本研究では半導体産業等の電子デバイス製造に用いられるバルブについて取り上げ、その変遷について述べる。半導体製造に求められる仕様に基づき、各種バルブを開発、製造してきた。図2は今までに開発されて来た半導体用の代表的なバルブについて記載した。半導体用バルブの設計思想であるオイルフリー、外部リークフリー、デッドスペースフリー、パーティクルフリー、アウトガスフリー、コロージョンフリーを実現する、現在主流のダイレクトダイヤフラムバルブまでの変遷とその特性についてまとめたものである。バルブとしてはグランドパッキン方式のバルブ、ベローズバルブ(内圧式・外圧式)、ダイレクトダイヤフラムバルブを記載した。主な性能として外部リーク量、パーティクル性能、耐久性がどれだけ向上してきたかを示した。

図2. バルブの変遷

図2. バルブの変遷

また、バルブの開発とともにバルブの性能を正確に評価するガス置換特性、ドライダウン特性、パーティクル特性の評価システムも同時に開発を行った。特にガス置換特性評価系はガスの切り換えにデッドスペース極小にしたブロックバルブを、サンプリングバルブにデッドスペース極小、極微量調整クリーンバルブを開発することにより、何回やっても同じデータが取れる再現性の高い評価設備を開発した。これによりダイレクトダイヤフラムバルブは同等長さのチューブと同等のガス置換特性を持つことが確認できた。

測定系と測定結果を図3,図4に示す。

図3. ガス置換特性測定系 / 図4. ガス置換測定結果

図3. ガス置換特性測定系 / 図4. ガス置換測定結果

パーティクル評価系はバルブを通過したガスが全てパーティクルカウンタに吸引できるようにし、サンプリング配管を2重管構造とし、バルブ開時は不足流量を2重管のフィルタリングしたガスを吸引、バルブ閉時は全てのガスを2重管のフィルタリングしたガスを吸引できるようにした。これによりバルブ開閉に伴う脈動によるパーティクルの発生が無くなった。当時、正確に測定できなかったバルブ開閉時のパーティクル数を正確に計測できるようになった。ダイレクトダイヤフラムは0.1μm以上のパーティクルが0.1ヶ以下/開閉を実現した。測定系と測定系結果を図5,図6に示す。これら評価システムを開発することによりバルブ性能の飛躍的な向上と製品としての安定供給が可能となった[3]

図5. パーティクル測定系 / 図6. パーティクル測定結果

図5. パーティクル測定系 / 図6. パーティクル測定結果

3. 電子デバイス製造ガス供給バルブの高性能化

最近の新たな要求として出てきた原子層堆積法(ALD)プロセスを示す。具体的なALDプロセスを示す。(図7)

図7. ALDプロセス

図7. ALDプロセス

ALDプロセスに要求されるバルブは高速開閉が要求される。市場ではバルブ開閉を100ms以内で実施したい意向があり、その場合バルブの応答時間は20m以下を要求されている。(図8)。

図8. バルブの高速化について

図8. バルブの高速化について

また、高速で開閉すれば当然耐久回数も増え、ALDプロセスの1サイクル(前駆体供給→パージガス→酸化種供給→パージガス)はパルス時間のオーバーラップを考慮すると短いものでも2.2秒程度と言われており、それより試算すると1年に約1000万回の耐久回数が必要になる。また、ALDで使用される低蒸気圧ガスはチャンバーへガスとして安定に供給するためには200℃は必要である。

以上よりALDプロセスに必要なバルブ仕様をまとめると表1になる。

表1. ALDプロセスに必要なバルブ仕様

表1.  ALDプロセスに必要なバルブ仕様

ダイヤフラムバルブの耐久性向上を図るためには、ダイヤフラムにかかる応力をなるべく低くする必要がある。金属材料では応力値がある限界値以下になると疲労破壊しなくなる。応力値を小さくするためにはダイヤフラムの小径化あるいはダイヤフラムの開閉時の変位を小さくすれば良い。しかしバルブとしてはプロセスに必要とされる流量を確保する必要があり、ある程度の変位が必要である。Cv値を確保しながら耐久性を向上させる必要がある。弊社のもつ各種ダイヤフラムのCv値特性を図9に、各バルブリフトにおけるバルブ内部状態図を図10に示す。

図9. 各種ダイヤフラムのCv値特性 / 図10. 各バルブリフトにおけるバルブ内部状態図

図9. 各種ダイヤフラムのCv値特性 / 図10. 各バルブリフトにおけるバルブ内部状態図

ダイヤフラム径15mm、20mm、26mmでそれぞれ全開時のCv値は0.12、0.30、0.65となっており、目的とするCv値を得るためにはリフトを最大の100%としていた。ALDプロセスではCv値は0.45以上を求められたため、ダイヤフラムは径26mmのもので開発する必要がある。Cv値0.45はバルブリフトでは40%の位置に相当することがわかる。

まず、ダイヤフラムを変形させた時にかかる応力解析を行った。ダイヤフラムの応力解析のため、有限要素法(Finite Element Method)を用いた。解析にはNX Nastranを用いて、荷重時間履歴で境界条件、材料条件、要素の接点変位を更新しながら追従させる陰解法非線形静解析(Implicit Non-Liner Statics Method)を使用した。ダイヤフラムの接触アルゴリズムには拘束関数法(Constraint Function Method)を使用した。ダイヤフラムにかかる最大応力を求めた。その結果をS-N曲線に適応し、ダイヤフラムリフトと繰り返し回数によるバルブの破断予測を行った。図11に示す[4]

図11. 繰り返し回数によるバルブの破断予測

図11. 繰り返し回数によるバルブの破断予測

所定のバルブリフトのダイヤフラムバルブを用いて応力解析と同じ条件下で繰り返し開閉試験を実施した。その結果、リフト1.2mmの場合150万回で破断し、リフト1.00mmの場合250万回で破断した。リフト0.8mm及び、0.75mmの場合は1.5億回を超えてもダイヤフラムは破断していない。

この結果は破断予測曲線とほぼ一致していることが分かる。ダイヤフラムの応力解析結果をS-N曲線に適応することでバルブの耐久回数を予測することが実証できた。

ダイヤフラムを適切なリフトに設計することにより、バルブの高耐久化を実現出来ることが明らかになった。今回、開発したバルブはCv値0.45を確保するためのバルブリフトは0.5mmであるため、5000万回の耐久性を十分に持つことが確認できた。

次に高速応答に対しては、従来のエアーバルブの応答速度を測定し、応答速度の92%を伝搬遅延時間が占めることを示した。応答測定実験系と従来のバルブ応答時間測定結果を入れる。

伝搬遅延時間の影響因子は電磁弁の応答時間、電磁弁のCv値、チューブ長さ(容量)、アクチュエータ内容積等が考えられる。駆動圧力の充填時間にほとんどの時間は費やされていることが分かる。

よって、伝搬遅延時間を短縮するためにはアクチュエータの内容積、及びチューブ長さの縮小が有効であると考え、アクチュエータの内容積を極限まで低減させ、エアーチューブの不用とするために電磁弁をアクチュエータ上部に搭載する電磁弁直付け構造とした[5]。図12に示す。

図12. 電磁弁搭載型バルブ

図12. 電磁弁搭載型バルブ

この設計により応答速度12.5msを達成し、高速化仕様である20ms以下を実現した。(図13)

図13. 電磁弁搭載型バルブ応答時間測定結果

図13. 電磁弁搭載型バルブ応答時間測定結果

また、液体材料を安定に供給するため高温200℃に対応したバルブを開発した。シート材料をPCTFEから200℃に使用できるPFAに変更した。アクチュエータに使用するOリングの耐熱性を考慮し、エクステンション構造とした。これによりバルブボディを200℃に保温した時にアクチュエータ部の温度が150℃以下になることを確認した。以上によりALDプロセス用の200℃仕様の高速応答、高耐久性の高性能バルブを開発した。

4. 電子デバイス製造ガス供給バルブの高温対応

半導体製造の高性能化及びLED、有機EL等の新プロセスに対応するため、300℃及び450℃対応の高温バルブを新たに開発した[6]。300℃を超えるバルブは、バルブシートに樹脂材料が使用できないため、バルブボディ一体加工したシート部にてメタルシート構造とした。また、アクチュエータ部にOリング等エラストマーを使用できないこと、300℃を超えるバルブは恒温槽に入れて使用されることが多いため、アクチュエータ部もメタルベローズを使用したオールメタル構造とした。メタルシート構造はシールマージンが少ないため、シート性能を確保するために、介在物の影響を考慮し、ダブルメルト材を選定した。これらは既に300℃仕様のバルブで実現済みの技術である。今回、新たに450℃仕様のバルブを開発するにあたり、各種部品の温度性能を見直し450℃に使用できる材料を選定した。

また、300℃仕様のバルブの問題点を明らかにし、その対策を実施した。300℃仕様バルブの大きな問題として開閉回数とともに増加するパーティクルとシール性能の低下があげられる。(図14)

図14. 開閉回数に伴うパーティクル発生状況

図14. 開閉回数に伴うパーティクル発生状況

バルブシート部のせん断応力分布を応力解析することにより、300℃仕様のバルブは荷重作用位置が内側にずれていたことが今回新たに確認できた。このずれをパーティクル発生の原因、シートリークの低下の原因と考え、設計どおりの平面当りするようにシート形状の最適化を図った(図15)。

図15. シミュレーションによるシート位置でのせん断応力の分布確認

図15. シミュレーションによるシート位置でのせん断応力の分布確認

改善した新シート形状でのバルブのパーティクル、シートリーク試験結果を図16、図17に示す。

図16. パーティクル試験結果 / 図17. シートリーク検査

図16. パーティクル試験結果 / 図17. シートリーク検査

従来300℃仕様バルブの初期状態はパーティクル性能も1ヶ以下/開閉であるが、開閉回数が増えると仕様を超えるパーティクル数となっていた。同時にシートリーク量も増えて1×10 -5 Pa・m3/s 程度になっていたが、改善したシートの450℃仕様バルブでは20万回開閉後も1ヶ以下/開閉(実績0.2ヶ以下)となり、シートリーク量も5×10-7 Pa・m3/s 以下を達成した。また、高温化に伴うCv値の低下の原因を突き止め、ダイヤフラム材の時効処理温度を最適化し、ダイヤフラムの強度を上げることにより、高温環境でもCv値を大きく改善した(図18)。

図18. 高温時Cv値測定結果

図16. パーティクル試験結果 / 図17. シートリーク検査

300℃仕様のバルブは350℃の熱処理をしていたが、これでは450℃にした時、Cv値は室温時の70%減少したが、熱処理温度を525℃にすることによりダイヤフラム強度をアップさせ、20%の減少にすることが出来た。実使用上では全く問題の無いレベルと考える。

5. まとめ

本論文は、最近の半導体業界の新しいプロセスであるALDプロセスに対応できる高性能なバルブ、さらにLED業界、有機EL業界向けの450℃に使用できる高性能のバルブの開発についてまとめたものである。

これらの高性能バルブの開発が実現できたことにより、本バルブを使用する半導体業界、LED業界、有機EL業界の発展に多いに寄与出来るものと考える。

文献

[1]
大見 忠弘,“ガスが拓くプロダクトイノベーション”, リアライズ社, 1996年
[2]
J. W. Elam, M. D. Groner, and S. M. George,” Viscous flow reactor with quartz crystal microbalance for thin film growth by atomic layer deposition”
[3]
Fine series PURE®DATA HANDBOK ウルトラクリーンスペック UP[Ⅰ] Fujikin Incorporated
[4]
Michio Yamaji, Tsuyoshi Tanikawa, Tadayuki Yakushijin, Takashi Funakoshi, Satoru Yamashita, Atsushi Hidaka, Masaaki Nagase, and Nobukazu Ikeda, Shigetosi Sugawa and Tadahiro Ohmi, “Diaphragm Durability Enhancement for Valves Supplying Gas for Atomic Layer Deposition”, ECS Trans., Vol.58, No.10 p.41, 2013.
[5]
大見 忠弘, 山路 道雄, 池田 信一, 唐土 裕司, “流体制御システム及びこれに用いるバルブ”
特許第3452695(2003)
[6]
東 慎太郎,「MOCVD材料」, 高純度化学研究所