製品情報

ウルトラクリーン化の歴史

池田和弥

池田 和弥Ikeda Kazuya

株式会社フジキン
上席常務取締役 常務執行役員
わざづくり(技術)部門 研究創造開発本部長
大阪ハイテック研究創造開発センター 責任者 代表技師 R&D担当
フジキンソフト(株) 常務取締役 大阪テクノポートクリエイトセンタ責任者
博士(工学)

  • 1998年 論文「半導体製造用高性能ガスパネルに関する研究」

8つのコンセプトで超高純度ガス供給技術を追求

現在、半導体の世界はパラダイムシフトの時期を迎えています。それがハードディスクからフラッシュメモリへの移行です。世界中のデータセンターにおいて、この動きが加速しており、これから先、フラッシュメモリへの移行が爆発的に進むと予測されています。そこで半導体メーカー各社は未曾有の投資を続けています。

こうした状況の中、半導体の製造に関してさらなるクリーン化に向けたニーズが高まっています。そこでフジキンにおけるバルブと溶接に関するウルトラクリーン化への取り組み事例を紹介するとともに、今後の課題と取り組みについて話をさせていただきます。

日本においては、半導体製造分野の世界的な権威であった東北大学教授の故大見忠弘先生が、ガス供給系に対する提言、「CONCEPT OF ULTRACLEAN GAS TECHNOLOGY」として8つの項目を挙げられたことが有名です。すなわち、パーティクルフリーをはじめとして、外部リークフリー、デッドスペースフリー、放出ガスフリー、最小実効表面積、誤動作フリー、耐腐食性、非触媒性を超高純度ガス供給技術のコンセプトとして提言されました。

まずパーティクルフリーですが、接ガス部に摺動部やネジ部がないのが基本です。これについて、フジキンでは昔から取り組んできました。

外部リークフリーとは、応力や振動、熱がかかってもリークしないメタルシールであることを意味します。樹脂のシールを使うと透過リークというものが存在しますから、メタルシールでないとだめだということです。

それからデッドスペースフリーは、袋小路をつくらないということです。集積化部品の2連3方弁等がそうです。

アウトガスフリー。第一歩は素手で配管部品を触らないということです。そして超純水による最終洗浄。プラスチックを使わない。もしも使うときはガス抜きをします。そして大気にさらさない。アルミ・クロム酸化不働態処理を行う。これらによって、放出ガスを減らすというものです。

最小実効表面積は、接ガス表面を平坦且つ平滑にすることでガスの吸着面積を減らすことを言います。フィルターは表面積が非常に大きいため、大量のガスが放出される可能性が高くなり、使用するフィルターの数を最小にすることが求められます。

誤動作フリーについては、入力信号通りに動作することが求められます。動作速度10msec以下で、アンサーバック機能が必要とされます。

耐腐食性としては、ピンホールがないことが第一です。Al2O3、Cr2O3、FeF2などの表面不働態処理で優れた耐食性の向上を達成しました。

最後に非触媒性によって、低温でガスを分解しないことがポイントです。触媒効果を持つ材料を使用しないこと、アルミ・クロム酸化不働態処理を使うことで対応します。非触媒性については、液体材料ガスの熱分解特性の把握に今も考え方を活かしています。

研磨をなくしてはパーティクルを除去できない

レイアウトの都合上、パーティクルフリーについてのみ若干説明させていただきます。フジキンとしてクリーン化の第一歩は、パーティクルフリーの考え方でした。1985年にUP処理という技術を開発しましたが、パーティクルフリーが前提となっています。当時は0.1μmサイズのパーティクル、つまりゴミがなければよいとされていました。

配管内のパーティクルは、2種類存在します。一つは元々から配管内に付着残留していたものと、もう一つは摩耗や腐食で新たに発生するものの2種類です。これらをいかにゼロに近づけるか、これこそがバルブメーカーの責任だったわけです。

パーティクル測定結果

パーティクル測定結果

元々存在するパーティクルをなくすにはどうするか。例えば、配管のチューブを考えた時、チューブの表面粗さがRyで3μmだったとします。3μmの粗さ・凹凸の溝の中に、0.1μmのゴミが大量に存在したとします。これを洗浄によって除去すればよいわけです。しかし、実際はそう簡単ではなくて、壁面をガスでパージしたとして、壁面での流速はほぼゼロですから、除去はとても無理というわけです。ではどうするかというと、これらを取り去るために欠かせないと考えたのが研磨でした。そこで、内表面粗さの改善はパーティクル対策の必要条件であるとの考えのもと、研磨技術を追求しました。

その結果、1985年に化学複合研磨であるUP処理を開発しました。当時、社内から「芸術品をつくっているのか」と皮肉を言われたものですが、今日では当たり前の製造技術となっています。当時から追求してきた「研磨をなくしてはパーティクルを除去できない」という発想は間違っていなかったわけです。

溶接時や材料の改善を通じてパーティクルを除去

次にチューブ溶接のクリーン化について簡単にお話します。1990年代、課題であったのは、自動溶接のクリーン化でした。最初に自動溶接機のヘッド部分のガスをパーティクルカウンターで測ると、パーティクルが10万個以上出ました。ヘッドの部分を洗浄しても数千個単位で出てくる。自動溶接のヘッド部分は溶接による発塵で汚染を避けることはできないことが解りました。チューブを自動溶接したとき、配管内面側の汚染を防止することが目的です。外面、環境は汚染されていることが解ったため、如何に内面側を汚染せずに溶接できるかがポイントです。

内面鏡面の例 ステンレス製溶接エルボ 外形φ34mm

内面鏡面の例 ステンレス製溶接エルボ 外形φ34mm

当然内面焼けを防止するために被溶接チューブには、バックシールドガスを流します。溶接をスタートすると放電開始時にアークフォースという力が働きます。溶接部の外部で散乱していたパーティクルが、その力で配管内に押し込まれ配管内を汚染していました。そこでバックシールガスで内圧を徐々にかけて、アーク力よりも強い内圧とすることで、アークスタート時のパーティクル汚染を防ぐことができました。

溶接電流を上げていくと、溶接のビード幅が広くなり、パーティクルも増えることが確認できました。これは金属の蒸気が影響していると考えられます。溶接温度でのマンガンの蒸気圧は、他のステンレスの主成分、鉄、ニッケル、クロムに比べ、数千倍高い。よって、パーティクルの主元素はマンガンに関係するのでその対策が欠かせません。JISではSUS316Lのマンガンの含有量は2%以下とされています。真空二重溶解材はだいたい0.4%以下です。さらに改善された極低マンガン材の規格は0.05%以下ですが、実際には0.01%ぐらいまで下げられており、溶接に関係するパーティクルの発生が大幅に抑えられました。加えて溶接ビード部近傍の耐食性劣化が蒸発したマンガン成分の再付着が原因であったことから、極低マンガン材を用いることで溶接部の耐食性も大幅に改善できました。

そのほかの元素についても若干触れます。硫黄はJISでは0.03%以下ですが、真空二重溶解材では0.003%以下です。溶接をするときに溶けている部分・溶融池は対流していますが、硫黄成分が非常に少なくなると対流の方向が逆転します。通常のJIS材ではマランゴニ対流ですが、硫黄成分が極端に少ないと自然対流となります。対流方向が逆転することで、溶接後の内面は、JIS材の場合、目視で白っぽく見え、拡大するとフリーデンドライトの樹林のような肌から、真空二重溶解材では、目視で鏡面、拡大しても滑らかな肌となります。さらに真空二重溶解材の場合、溶接時の熱間割れの原因となる硫黄やりんの成分が少ないので、割れの発生を著しく低く抑えられるメリットもあります。

溶接部のSEM観察写真

溶接部のSEM観察写真