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圧力制御式超高精度ガス流量コントローラ(FCS-P8500)

表彰状画像が入ります。

2021年 第18回
超モノづくり部品大賞「機械・ロボット部品賞」受賞製品

第18回 超モノづくり部品大賞(主催:モノづくり日本会議様/日刊工業新聞社様)において、フジキンのFCS-P8500 が「機械・ロボット部品賞」を受賞しました。デジタル社会を支えるうえで、もはや半導体は必要不可欠です。半導体の量産工場では、同一工程に複数台の製造装置を導入した短TAT(Turn Around Time)生産が主流となっていますが、装置ごとのばらつき(機差)を極小化することが要求されます。例えばドライプロセスの場合、半導体製造装置のチャンバ内でプロセスガスのガス種と流量を高精度かつ短時間に次々と切り替えて実行されています。そのため、プロセスガスを小流量から大流量まで高精度に流せるガス流量制御器が必要となります。そのガス流量制御器について、以下本文でご説明いたします。

1. 部品の内容および特長

現代社会における情報通信の高度化を牽引している先端半導体では、回路線幅が7から5ナノメートルへと微細化が、またメモリでは200層近くの3次元化による高集積化が進んでいます。その製造装置においては、回路を形成する成膜(導電膜や絶縁膜)の膜厚と、それらを3次元構造に加工するエッチングの精度をナノメートルレベルで管理することが求められています。真空チャンバー内のシリコンウエハー基板上に成膜やエッチングを行うプロセスには、シリコン系、アルミ系、酸素、アルゴンなどの多種のガスが用いられています。そのプロセスガスを、毎分数㎤の極微量から数千㎤まで高精度かつ高速応答で供給しているのが流量制御器です。フジキンでは独自開発の圧力制御式ガス流量コントローラFCSP7000シリーズ(以下「従来機種」)により、このニーズに応えてきました。

半導体回路の微細化と高集積化により成膜やエッチングのプロセスが複雑になり、必要なプロセスガス種が多様化してきました。流量制御器はガス種毎に必要であり、また従来は同一ガス種用でも制御流量に応じた機種が必要でした。今回開発した新製品FCS-P8500(FCS-P8000 シリーズ)は、従来機種と同一の筐体サイズで流量制御範囲(以下、「レンジアビリティ」)を10 倍に拡張するとともに、流量制御精度を40倍向上させた流量制御器です。これにより、従来機種では3ユニットを必要としたレンジアビリティを1 ユニットで実現できます。同じサイズのガスボックスに3種類のガス供給系を格納可能となり、ガス種の多様化という新たなニーズに応えることが出来るようになりました。主要部品のコントロールバルブや圧力センサなどの小型化、新たな流路構造やパーツ配置の最適化により、二対の流量制御機構を従来と同サイズの筐体内へ組み込むことを実現しました。また新規のアルゴリズムの開発により、この二対をシームレスに制御することを可能としました。先端半導体製造において、製造時間の短縮と高精度化を両立。デジタル社会を支える半導体の性能向上に貢献する技術です(図1)。

図1 流量制御ユニットの特長

図1 流量制御ユニットの特長

2. 評価項目

2-1. 技術の独創性

1.圧力制御式流量制御(FCS-P)方式の基本性能について

FCS-Pは、高精度の圧力センサとオリフィスの組み合わせにより、オリフィス上流・下流の圧力をモニタしながらコントロールバルブでガス流量を制御します。高精度・機差が少なく再現性が高い流量制御が可能です。またFCS-Pの圧力センサ及びコントロールバルブの応答速度はともに1,000分の1秒以下で応答性能が高いという特長もあります。ところが、レンジアビリティには制約がありました。採用するオリフィス径とコントロールバルブの大小により流量の制御範囲が制約されるためです。

2.レンジアビリティの拡大

流量制御幅のユーザーニーズ(毎分1 ~ 1,000㎤)に応えるため、従来は3種のオリフィスとコントロールバルブを採用した個別の機種を組み合わせる必要がありました。毎分の制御幅1 ~ 10㎤、10 ~ 100㎤、100 ~1,000㎤の3機種です。今回の新製品FCS-P8500は、大小流量2 系統の流路を1 台に組み込むことで、1台で毎分1 ~ 1,000㎤のレンジアビリティを達成しました(図2)。

図2

図2

3.シームレスな制御

半導体製造装置において、エッチング工程や成膜工程などのプラズマ制御を伴うプロセスでは、プロセスに用いるガス流量のオーバーシュートやアンダーシュートがプラズマ制御の安定性に影響を与え、半導体の品質ばらつきの原因となります。そのため、連続したプロセス中に流量制御器の制御流量を変化させるステップ応答制御時のオーバーシュートやアンダーシュート量は、半導体の品質ばらつきに関連するパラメータとして、半導体製造装置上でも厳しく管理されています。

本製品の開発において、小流量レンジから大流量レンジ、または大流量レンジから小流量レンジへの切り替えを伴う流量制御をいかにオーバーシュートやアンダーシュートなくシームレスに行うかが重要な課題でした。大/小流量の流量レンジ切り替えの場合、大/小流量それぞれのレンジを独立して制御すると、制御流量の連続性が失われます。

FCS-P8500では大流量と小流量との切り替わりの過渡応答時には、両方のコントロールバルブを駆動させ、大小合計のガス流量を制御することでシームレスなステップ応答制御を実現し、ガス流量のオーバーシュートを従来のFCS-P同等の性能(S.P.(Set Point)2%以下)へと達成しました(図3)。

図3

図3

4.高精度保証範囲の拡大

図4 に従来機種とFCS-P8500との流量精度範囲の比較を示しています。製品仕様上の流量制御範囲の下限は1%から0.1% に拡大し、レンジアビリティとしては1:100 から1:1,000に10倍拡大されています。

従来のFCS-Pでは、流量設定値が10%設定以上はS.P.(Set Point)1% 保証(設定流量に対して1% 以下の流量誤差)、10% 設定以下の領域では青色点線で示す従来機種の流量精度保証値はF.S.(Full Scale)0.1%保証(100%流量に対して0.1% 以下の流量誤差)となります。それに対してFCS-P8500では、流量設定値が0.25% 設定の領域までS.P.1% 保証領域を拡大し0.25% 設定以下はF.S. 0.0025% 保証です。従来機種1台に対し、S.P.1% 精度保証流量範囲は40 倍で、低流量設定域の大幅な流量精度向上を実現しました。従来機種と比較すると、高精度なガス流量制御範囲が大幅に拡大していることが分かります。

図4

図4

2-2. 経済性

従来では複数の流量制御器が必要であったガス流量範囲を一台でカバー可能となり、ガスラインを削減できます。図1のように、流量制御器に付随するフィルタ、減圧弁、圧力計、バルブ、継手類の部品の削減にもつながり、ガス供給システム全体のコストダウンが可能です。

さらに、FCS-P8500の採用により空いたガスラインに別のガスを増設することもできます。スペース制約により、ガスボックス内がいっぱいでガスライン(ガス種)を増やせなかったものを、3 ラインを1 ラインにすることで新たなガスラインの増設が可能となり、半導体製造装置にとっては大きなメリットです。

2-3. 今後の普及見通し

FCS-P8500を用いることで、半導体製造装置に搭載のガス供給ラインの削減によりコストダウンが可能になります。ガス供給システムにおいて、現時点で普及しているガス流量制御器を用いた場合に対し、FCS-P8500を用いた場合では、同等以上の性能を保ちつつ、コストを1/2倍程度に抑えられる見込みがあります。

また、FCS-P8500 は半導体製造装置向けで普及しているEtherCAT、DeviceNet、RS485の3種類のデジタル通信方式全てに対応しております。現行のガス流量制御器からの置き換えにも問題なく対応可能です。

今後の普及が急速に進むと予測し、年間約1,000台の販売を見込んでいます。

尚、2021年4月、SEMI は半導体製造装置(新品)の2020年世界総販売額が、過去最高の712億米ドルになったと発表しました。2019年の598億米ドルに比べると19%増加となります。流量制御器が搭載される成膜とエッチング装置の市場についても、今後、大幅な需要増加が見込まれます。

2-4. 安全性および環境への配慮

電磁環境に適合するため、EMC(CEマーキング)試験を行い、電磁妨害(EMI)規格および電磁感受性(EMS)規格に適合していることを公的機関で試験を実施し、安全性を確認しています。

RoHS(ローズ)指令に対応するため、制御に使用する電気回路基板の鉛フリー化を実現しています。製品内の有害物質を含む材料をなくし、環境への配慮に取り組んでいます。

3. その他

新聞記事への掲載

2021年6月7日付 日刊工業新聞 「流量制御10 倍 1台で3台分」 本製品のベースとなったFCS-Pは2007年の第4回超モノづくり部品大賞で奨励賞を受賞しています。