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高精度流量バルブ

表彰状画像が入ります。

2020年 第17回
超モノづくり部品大賞「機械・ロボット部品賞」受賞製品

第17回 超モノづくり部品大賞(主催:モノづくり日本会議様/日刊工業新聞社様)において、フジキンの高精度流量バルブが「機械・ロボット部品賞」を受賞しました。本製品は半導体製造の前工程における成膜装置やエッチング装置に、有機金属などのプロセスガスを供給するシステムで用いられます。半導体の高集積化が進むにつれて、今まで以上に流量精度や小型化が要求され、新たな課題となります。なぜ加工公差の累積による個別バルブ毎のCv値のバラツキを大幅に軽減できたのか。どのようにして、ガスモジュールのさらなる小型化を実現したのか。詳細を本文でご説明いたします。

1. 部品の内容および特徴

半導体産業は現在、次世代通信(5G)やリモート・オフィスの普及に牽引され、堅調に進展しています。設計・製造においても、半導体回路の微細化や高集積化の技術が次々と実用化され、小型大容量メモリー等の量産設備への投資が進んでいます。本製品は、半導体製造プロセスに活用されている吾社ダイヤフラムバルブの新製品です。

従来品における技術蓄積をもとに、さらなる新規考案を加え、①流量精度の大幅な改善、②ガスモジュールの小型化を実現しました。主力製品として国内外向けに年産10 万台以上を目指しています。

半導体製造プロセスには、真空チャンバ内でシリコン・ウエハ上に回路を形成する装置があります。有機金属などのプロセスガスを用いる成膜装置やエッチング装置です。それらの装置のガス供給システムの主要部品を構成するのが本製品です(図1)。

図1 半導体製造プロセスにおける本製品バルブの例

図1 半導体製造プロセスにおける本製品バルブの例

2. 評価項目

2-1. 技術の独創性

1.従来のダイヤフラムバルブ

フジキンでは従来から、半導体製造プロセスのガス系では、ダイレクトダイヤフラムバルブを商品化しています。ダイレクトダイヤフラムバルブは、開閉時のパーティクルの発生量が少なく、開閉精度が他の方式に比べて優れた構造で、バルブボディに固定したフッソ樹脂系のバルブシートに直接、皿型の金属ダイヤフラムを押下することでガスを閉止する構造です(図2)。

図2 ダイヤフラムバルブの外観と構造

図2 ダイヤフラムバルブの外観と構造

2.従来製品の課題

ダイヤフラムバルブは半導体製造プロセスガスの制御に用いられるため流量の精度が要求されます。しかし、個別バルブ毎のバラツキを抑えるには限界がありました。原因は加工公差の累積にあります。バルブの流量(Cv 値)は入口流路、リフト、出口流路の有効断面積で決まります。入口流路、出口流路の径には加工公差があります。リフトには関連部品の加工公差が積み上がっています。それらが累積するため、Cv値のバラツキを抑えることが出来ませんでした。

3.新製品での課題解決

バラツキの原因のうち最も影響が大きいのはリフト幅であり、これを調整する機構を考案し、バラツキを大幅に低減したのが今回の新製品です。調整ネジとロックナットでダイヤフラムのリフト幅を調整可能な機構としました。実際の流量(Cv 値)の調整は、圧力制御機で一定圧力のガスを供給し、流量を測定しながら、調整ネジを手動で回して行います。調整後はロックナットで固定します。現在、量産品として流量(Cv値)のバラツキ±3%以下を達成しています。より高精度な流量測定システムを用いれば更に精度の向上も可能です。
バルブの組立と流量調整は次のステップで行っています(図3)。

図3 バルブ製造工程

図3 バルブ製造工程

4.新製品での新機能(ガスモジュールの小型化)

従来のバルブは、バルブ駆動部(アクチュエータ)とダイヤフラム押さえ部(ボンネット)が一体でした。今回の開発では、流量(Cv値)調整機能を持たせるため、ボンネットはアクチュエータから分離しています。このため、ニーズが高まっているガスモジュールの小型化が可能となりました。すなわち、従来ですと、一体となったアクチュエータとボンネットでダイヤフラムをバルブ流路(ボディ)に組み付けるために、バルブ間に横から締め付け工具の入るスペースが必要でした。今回のバルブでは、ダイヤフラム→ボンネット→アクチュエータの順に、上部から組み付けが可能となり、バルブ間隔を最小限とし、ガスモジュールの高集積化すなわち小型化が可能となりました(図4)。

また、ガスモジュールの小型化によりモジュール内のガス流路長(流路抵抗)の差が少なくなります。さらに、今回の流量(Cv 値)調整機能を積極的に用いることにより、バラツキの低減だけでなく、流量(Cv値)の変更も可能となります。それにより、ガスモジュール流路毎の流量調整をより精密に行うことができ、流路長の差による流量への影響を無くすことが可能となります。

図4 新製品によるガスモジュールの小型化

図4 新製品によるガスモジュールの小型化

2-2. 性能(従来製品との性能比較)

図5 従来製品との性能比較

2-3. 経済性

1.部品コスト低減

バルブの部品点数を削減し、ブロック化の際にはボディサイズを小型化できるため、バルブ製造時のコストを削減しております。また、ブロック化により、バルブを接続する継手、ガスケット等の使用部品を削減、また、リーク箇所の大幅な削減により装置製造時のコスト削減に寄与します。

2.生産体制の構築

バルブの製造設備、製造技術は万博記念つくば先端事業所、大阪工場 柏原の2つの工場にて展開しており、各工場で本バルブの製造ができる体制を構築しております。今後、大阪工場 東大阪への展開も検討しており、自然災害、パンデミック等の不測の事態が発生した場合にも、事業継続が可能な生産体制の構築を進めております。

2-4. 安全性および環境への配慮

1.安全性

バルブ間を接続する継手箇所が削減されており、継手接続箇所からの毒性ガス、可燃性ガス等の危険なガスの漏洩リスクを低減し、保安・安全性に貢献します。

2.環境への配慮

バルブの設計時に部品点数の削減、従来製品の部品と兼用化を実施しています。また、ブロック化の際、ボディサイズの小型化、組立時の作業性向上を図っており、バルブ生産時の省エネルギー化とコストダウンを実現しています。

3. その他

新聞記事への掲載

2020年6月3日付け 日刊工業新聞「フジキン、流量精度±3% 24年度10万台体制半導体製造ガス制御バルブ」

4. 特許関係件数

1.出願番号:特願2018-179889、
 名称:ダイヤフラムバルブ

2.出願番号:特願2019-141073、
 名称:バルブ装置、流体制御装置及びバルブ装置の製造