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超高圧液体水素適合バルブ

表彰状画像が入ります。

2019年 第16回
超モノづくり部品大賞「大賞」受賞製品

第16 回 超モノづくり部品大賞(主催:モノづくり日本会議様/日刊工業新聞社様)において、フジキンの超高圧液体水素適合バルブが「大賞」を受賞しました。本製品は1976年に国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)様と共同研究を開始した宇宙ロケット用バルブ、大型ロケットへの燃料充填(じゅうてん)システム、水素ステーション向け超高圧水素ガス用バルブの技術蓄積をもとに、新技術を加えて開発しました。持続可能な水素社会の実現へ向けて、さらなる水素ステーションの普及が計画されていますが、液体水素を安全に供給可能にすることで、燃料電池バスなどの大型車両を含めたFCV(燃料電池自動車)への充填の需要にお応えすることができます。

1. 部品の内容および特徴

本製品は次世代の水素ステーションに必須のバルブです。現在、水素は圧縮ガスとしてトレーラーで水素ステーションに運ばれて貯蔵されています。これを液体水素に替えると輸送コストが低減し、貯蔵の効率が向上します。

しかし液体水素は気体水素に比べ極低温を保つ必要があります。さらに水素ステーションの充填能力を増すために供給系の高圧化が求められます。このため供給系バルブは、極低温、超高圧下での耐圧性と気密性を確保したうえで、大流量に対応しなければなりません。また製品としてはメンテナンスコスト低減のための長寿命化や、地震対策や耐震性といった安全性の向上および施工性向上のための小型軽量化などを達成する必要があります。フジキンは、水素ステーション向けの気体水素用バルブ(A)においては既に市販実績があります。液体水素用バルブも大型ロケットへの燃料充填システムで実績を有しています。また既に液体窒素用バルブ(B)の製品も有しています。今回それらの技術蓄積を基に、さらなる新規考案を加えて、以上のニーズに応える「超高圧液体水素適合バルブ(C)」を製品化しました。以下、具体的に補足します。

(1)液体水素は気体水素に比べ体積が1/800。同規模のトレーラーで圧縮水素ガスの12倍の重量を輸送可能。

(2)液体水素に替えると水素ステーション設備の簡略化により、貯蔵スペースの低減。【60%以上】

(3)大流量化とは、流れ易さを従来比10倍(Cv値0.1→1.0)に大幅改善。

(4)供給系の高圧化により、複数の車両への同時充填が可能になり、水素ステーションの能力が向上する。

(5)気体水素用バルブ(A)は極低温(-253℃)に対応していない。【-50℃まで】【99.9MPaまで】
   気体水素用バルブ(A)は超モノづくり部品大賞(環境関連部品賞)を2008年に受賞。

(6)ロケット用液体水素バルブは超高圧に対応していない。【-253℃まで】【45MPaまで】

(7)既存の液体窒素用バルブ(B)は大型。小流量。【サイズ/重量17kg】【耐圧は99.9MPa】【流量はCv0.35】

図1 気体水素用バルブ(A)の構造と外観

図1 気体水素用バルブ(A)の構造と外観

図2 超高圧液体水素適合バルブ(C)の構造と外観

図2 超高圧液体水素適合バルブ(C)の構造と外観

2. 評価項目

2-1. 技術の独創性

仕様の比較を表1に示します。既存製品に比べて、大流量化と耐久性向上を達成しました。それぞれの開発課題への取り組みは下記の通りです。

表1 既存製品との性能比較

表1 既存製品との性能比較

1.極低温対応

グランド構造のバルブにおいて、上下に可動するステムの外周にグランドパッキンという軸封部品を使用することにより、流体が外部へ流出するのを防いでいます。このグランドパッキンは、一般的に樹脂によりできているので低温に弱いという難点があります。

従来の気体水素用バルブ(A)では、グランドパッキンがバルブの流路近くにあり流体同等の温度になるため、バルブの使用温度はグランドパッキンの耐低温性の影響大です。

図3 気体水素用バルブ(A)のグランドパッキン位置

図3 気体水素用バルブ(A)のグランドパッキン位置

一般的にバルブを低温対応にするには、ボンネットをエクステンション(長軸)化して、グランドパッキンを流路から離すことにより、温度低下を防止しています。(図3)

また、ボンネットの長さはボンネットの外径に大きく影響します。ボンネットの外径が小さいほど伝熱量も小さくなり、グランドパッキンが冷却されにくくなるのでボンネットの長さを短くできます。

今回開発したバルブでは、ボンネットの材質をSUS316(引張強さ520N/mm2以上)から強度が高いXM-19(引張強さ690N/mm2以上)に変更することと、ボンネットの耐圧性能を維持したままボンネットの厚みを薄肉化することで、ボンネットの外径を小さくすることが可能になり、バルブ全体のコンパクト化に成功しました。(図4)

図4 液体窒素用バルブ(B)と超高圧液体水素用適合バルブ(C)のサイズの比較

図4 液体窒素用バルブ(B)と超高圧液体水素用適合バルブ(C)のサイズの比較

開発品を温度解析すると、ボディ部を液体水素温度-253℃にしてもグランドパッキン部は-3.8℃までしか冷却されていないので、エクステンション(長軸)化の効果があることが分かりました。

また、グランドパッキンを低温特性に優れた材質と構造に変更することにより、バルブの信頼性が向上しました。

2.大流量化

流量(Cv値)を流れやすくするには、バルブのシート部の流路を大きくしなくてはなりません。しかし、流路を大きくすると、流体を閉止する推力を上げる必要があり、アクチュエータ径も大きくしなければなりません。

今回、アクチュエータ径が過大になるのを防ぐためにステム先端に特殊表面処理を施しました。これにより、シート部のシール性が良くなり流体を閉止する必要推力を抑える事ができ、アクチュエータ径をコンパクトにする事が可能となりました。

3.耐久性

グランドパッキン構造・材質の変更とステム先端への特殊表面処理は、低温耐性とシート性能の向上だけでなく、バルブの開閉による耐久性も向上しました。

2-2. 性能

製品開発時の試験結果を表2に示します。全項目において良好な結果が得られ、超高圧液体水素用のバルブとして問題が無い事を確認しました。

表2 超高圧液体水素適合バルブ(C)の性能評価結果

表2 超高圧液体水素適合バルブ(C)の性能評価結果 写真1 高圧液体水素流通試験 試験風景 / 写真2 高圧液体水素流通後 試験品

写真1 高圧液体水素流通試験 試験風景 / 写真2 高圧液体水素流通後 試験品

上記写真2でも明らかな様に、高圧液体水素流通後も霜がグランドパッキン部まで到達しておらず、エクステンション(長軸)化の効果が現れています。

図5 高圧液体水素流通試験 温度と圧力のグラフ

図5 高圧液体水素流通試験 温度と圧力のグラフ

流通後の温度

温度測定結果から、グランドパッキン部(⑥長軸上)は雰囲気温度と同等。

2-3. 経済性

既存の液体窒素用バルブ(B)と比較して、ボディ材質にXM-19を採用することにより、材料単価は高価になりますが、全長がコンパクトになり、コストは10%程安くなります。また、図4に示すように、今回開発した製品は既存の液体窒素用バルブ(B)と比較して、高さが約40%ダウン、重さが約45%ダウンしたことから、水素ステーション設備においてメンテナンス性アップや作業性の向上が見込まれます。

2-4. 実績と今後の普及見通し

本製品は、2019年度に建設の液体水素ステーションに採用されました。

表2 超高圧液体水素適合バルブ(C)の性能評価結果

水素は利用時にCO2(二酸化炭素)を排出しないクリーンなエネルギーで、政府の「水素基本戦略」では2030年までに水素を利用するFCVの普及を80万台、バスを1,200台、FCVやバスに水素を充填する水素ステーションの整備を900カ所という目標を掲げています。今回開発した製品は2030年に6億円を目指しています。商用水素ステーションは2018年12月末時点で100カ所が整備されており、燃料電池バス対応ステーションの整備促進の取り組みが実施されているので、引き続き需要の増加が見込まれます。

また、水素先進国の米国でも、液体水素ステーションが今後の主流とする計画が進んでおり、グローバルな市場拡大も期待できます。

なお、既存製品の気体水素用バルブ(A)と液体窒素用バルブ(B)は、それぞれ1,010台と110台の出荷実績があります。今後、それらの用途向けにも、本製品の超高圧液体水素適合バルブ(C)が採用されることも見込まれています。

なお、既存製品の気体水素用バルブ(A)と液体窒素用バルブ(B)は、それぞれ1,010台と110台の出荷実績があります。今後、それらの用途向けにも、本製品の超高圧液体水素適合バルブ(C)が採用されることも見込まれています。

2-5. 安全性および環境への配慮

安全性は、前記JAXA様での共同研究において超高圧・液体水素供給設備を用いて、実環境に近い条件での高い温度変化・圧力変化を負荷させた条件でも製品性能を問題なく維持・機能することを確認できていることから、取り扱いに十分な配慮が必要な液体水素を扱う水素ステーション等の安全が本製品により確保出来るものと考えます。また本製品を開発できたことは、環境問題に対する一つの解決策である水素インフラの普及やエネルギー政策の促進に繋がります。また本製品は、環境に負荷を与えるものではございません。

3.その他

製品化にあたっては国内でも多くの水素ステーションを運営され、国内液体水素市場でも高いシェアを保持されて液体水素に対する実績を多く所有されている岩谷産業株式会社様の知見を頂きながら進めており、実証評価についてはJAXA様との共同研究にて実施しました。液体水素には大量輸送・貯蔵が可能、高純度などの特長があり、将来の水素大量消費社会の達成へも寄与できます。

  • <新聞記事への掲載 2019.5.24付 日刊工業新聞1面「液体水素、大型車に高速充填」>

大阪工場 柏原への取材映像