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半導体製造装置用 超小型IoTバルブ

表彰状画像が入ります。

2022年 第19回
超モノづくり部品大賞「機械・ロボット部品賞」受賞製品

第19回 超モノづくり部品大賞(主催:モノづくり日本会議様/日刊工業新聞社様)において、フジキンの半導体製造装置用 超小型IoTバルブが「機械・ロボット部品賞」を受賞しました。半導体製造装置には数多くのバルブが用いられており、ひとつでもバルブに不具合が生じると、大量の不良品が発生することになります。このようなことを未然に防ぐため、劣化部品の交換時期を知ることができるセンサ付きのバルブを開発し、なおかつ装置のコストダウンに繋がる小型化を実現しました。

1. 部品の内容および特長

半導体分野では、回路の高集積化による高性能化と、大量生産によるコストダウンがますます要求されています。弊社は、半導体製造装置(成膜/エッチング)にプロセスガスを供給する技術の革新で、これらのニーズに応えてきました。今回の製品は、プロセスガス供給のキーテクノロジーである超小型ダイヤフラムバルブをIoT化することにより、長期信頼性の向上を目指したものです(図1)。

半導体製造装置は量産化とコストダウンのために大型化しています。弊社のプロセスガス供給装置も製造装置一台に多数のバルブ(100個以上)を用いています。これら頻繁に開閉する多数のバルブの長期信頼性をいかに確保するかが重要です。これまで材料や構造の工夫による個体の長寿命化を行ってきましたが、さらに今回はIoT化による予知保全に向けた取り組みです。

図1 半導体製造フロー概略

図1 半導体製造フロー概略

2. 評価項目

2-1. 技術の独創性

1.従来製品

弊社では従来、半導体製造装置の流体制御装置に搭載しているダイレクトダイヤフラムバルブを商品化しています。ダイレクトダイヤフラムバルブは、開閉時のパーティクルの発生量が少なく、開閉精度が他の方式に比べて優れた構造です。バルブボディに固定したフッ素樹脂系のバルブシートに直接、皿型の金属ダイヤフラムを押下することで、ガスを閉止する構造となります。ダイレクトダイヤフラムバルブには、操作ガスの供給又は遮断でピストンを駆動させるアクチュエータを備えています。

以前から、実際にバルブが開閉しているかどうか確認するために、センサを搭載したIoTバルブのニーズがあります。弊社の従来型IoTバルブは、主に市販のファイバセンサを採用していました(図2)。アクチュエータ上部からファイバセンサを設置し、ピストンの動作をセンシングする方式です。

2.従来製品の課題

ファイバセンサ付きダイレクトダイヤフラムバルブでは、アクチュエータへのセンサ設置が容易なため採用されてきましたが、この方式ではピストンの動作ブレなどによる誤検知が生じる恐れがあります。図2は従来型IoTバルブの構造と検知の例です。閉じた状態のバルブに操作ガスを供給することにより、アクチュエータ内のピストンとステムが上昇し、同時にダイヤフラムが反力で変形して全開状態となります。このピストン上面とセンサの隙間を検出する方法では、中央の図にあるように、何らかの不具合でステムが上昇してセンサ出力があっても、バルブは全開になっていないケースもあり得ます。また、アクチュエータ内のピストンの動作をセンシングしていますが、実際にガスの開閉が行われているダイヤフラム近傍にセンサを設けることが出来ればより正確な開閉の検知が可能となります。

図2 従来型IoTバルブ(内部構造)

図2 従来型IoTバルブ(内部構造)

一方で、バルブ本体はコストダウンの強い要望もあり、超小型化しています。弊社では2016年に超小型バルブを開発し、同年の超モノづくり部品大賞機械部品賞を受賞していますが、この細い筐体(きょうたい)にいかにセンサを組み込むことができるか、既存の、どのようなセンサが望ましいのか、構造の工夫とセンサの選択が第一の課題でした。

また、従来製品では信号処理回路がスペースの制約で外付けとなっており、光ファイバ配線の取り回しにも難があり、多数のバルブをハーネス化することが困難でした。内蔵した回路から電気信号で発信させることにより、半導体製造工場で標準的に採用されている通信方式(EtherCATやDeviceNet)などとの親和性を高める必要があります。

今回の新製品「超小型IoTバルブ」は、このバルブに装着可能なセンサを自社開発し、さらに装着箇所とその機構の考案により、従来型IoTバルブより小型化かつ検知精度の向上を実現したものです。

3.新機能の紹介

本製品は超小型バルブに新センサとLEDを有した小型基板を搭載させた超小型IoTバルブです。

バルブの構造は、ボディとアクチュエータの間に、アクチュエータと略同径のボンネットが組付けられています。ボンネット内にステムが挿入されており、ダイヤフラムの開閉動作に応じてステムが上下に摺動します。

ステムには、切り欠かれた部分に検知体を有しており、また、ボンネットには、貫通する孔に新センサが嵌合(かんごう)されます。検知体と新センサは対向する位置にあり、ステムが上下に摺動すると、検知体の位置の変化を新センサが検知します。

新センサを取り付けたバルブは、カバーを用いて、ボンネットを覆い、かつ小型基板を内蔵しています。

小型基板は、カバーに収容され、小型基板に接続されるケーブルは、カバーの上面から鉛直に伸びています。また、LEDもカバーに収容され、カバーの上面から発光するようになっています(図3)。

本製品の幅方向やガスフロー方向に並設しても、ケーブルを配線するスペースが不要であり、かつ動作状況(LEDの発光)をカバーの上面から確認ができるので、バルブを超小型化してもセンサ出力が可能となります。

図3 外観図

図3 外観図

バルブは常時閉状態で、指令信号により電磁弁を開き、操作ガスをアクチュエータ部に供給することにより、ダイヤフラムの反力でダイヤフラム押えが上昇しバルブが開状態となります。そのダイヤフラムリフトを新センサが感知し、電気信号を外部に出力します。センサ出力と同時にバルブに取り付けられたLEDが点灯します。図4は実験装置により①レーザー変位計出力(ダイヤフラムリフト)②電磁弁出力(開閉指令信号)③センサ出力(開閉信号)を測定した結果例です。指令信号に従ってダイヤフラムが開閉し、センサが開閉状態に追従して電気信号で出力している様子がわかります。この例で用いたファームウェアでは、開閉状態をONOFF矩形で出力していますが、ダイヤフラムリフトの形状に沿わせるバージョンも開発しています。それにより、ダイヤフラムの劣化状態を検知することが可能となります。

図4 レーザー変位計と電磁弁と超小型IoTバルブの出力 概略及び波形例

図4 レーザー変位計と電磁弁と超小型IoTバルブの出力 概略及び波形例

先の図2で説明の通り、仮にダイヤフラムに異常があり、開状態にならない場合、従来型IoTバルブはアクチュエータ(ピストン)の動作をセンシングしているので、操作ガスを供給すればピストンは上昇し開状態としてセンサ出力します。一方、超小型IoTバルブは、ダイヤフラムの動作をセンシングしているので、操作ガスを供給すればピストンは上昇しますが、バルブは閉状態でセンサ出力もしない状態となります。このように、センシング対象をアクチュエータではなく、ダイヤフラムにすることで、より正確に異常を検知できるバルブを提供することができます(図5)。

図4 レーザー変位計と電磁弁と超小型IoTバルブの出力 概略及び波形例

図5 超小型IoTバルブ(内部構造)

2-2. 性能(従来製品との性能比較)

性能 (従来製品との性能比較)

2-3. 経済性

1.小型化

バルブの超小型化の実現で、自社での組立や検査、製品の輸送だけでなく、製造装置メーカー様、デバイスメーカー様においても、維持管理費用が非常に高いクリーンルーム内で本製品の占める専有面積が減少し、最終的にクリーンルームの維持管理費の削減につながります。図6は、超小型バルブ、流量制御器、超小型IoTバルブを搭載したガスラインの例です。一台の半導体製造装置にこのようなガスラインが数十本搭載されます。

2.コスト低減

本製品は、センサ基板を内蔵しているため、搭載しているケーブルに直流電源を接続するだけで、LEDの発光や外部出力が可能となります。製品としてシンプルかつコンパクトな構造になったので、本使用のセンサは、アンプ付きファイバセンサと比べ、約40%コスト削減を達成しました。

また、ボディ・ダイヤフラム・アクチュエータは、超小型バルブと同一部品を使用している為、開発コストを低減するだけでなく、超小型バルブと同一バルブスペック(使用圧力、耐久性、流量等)を提供することができます。

ガスライン例

図6 ガスライン例

2-4. 今後の普及見通し

半導体回路の微細化や高集積化は、ダイレクトダイヤフラムバルブに今まで以上の高頻度な開閉動作を要求し、その負荷により流体の漏出等を引き起こしやすくなる場合があり、ダイレクトダイヤフラムバルブの動作状況等を検知できる製品の需要が高まっています。本製品で採用した新センサを超小型バルブ以外への横展開も計画中です。また、本製品のさらなる応用展開として、ダイヤフラム近傍に様々なセンサを搭載したバルブの提供を目指しています。例えば、ダイヤフラム破断によってバルブ外のリークを早期段階で検出が可能なバルブや、経時変化によるシート高さ等の検出が可能なバルブを現在開発しています。

2-5. 安全性および環境への配慮

1.安全性

従来の小型バルブより配管流路の内容積が小さくなっているため、流路に残ったまま使用されずに廃棄されるガスの量が少なくなっています。

また、電気を使用する本製品は、電磁環境に適合するため、EMC試験を行い電磁妨害(EMI)規格および電磁感受性(EMS)規格に適合していることを公的機関で試験を実施し、安全性を確認済です。

2.環境への配慮

バルブの設計時に、従来製品の部品と兼用化を実施しています。また、RoHS2に対応するため、使用する小型基板の鉛フリー化を実現し、製品内の有害物質を含む材料をなくし、環境への配慮に取り組んでいます。

3. 特許関係件数

  • 出願特許 IoTバルブ関連 計17件 超小型バルブ関連 計3件