2014年 第11回
モノづくり部品大賞「奨励賞」受賞製品
モノづくり日本会議様と日刊工業新聞社様主催による「モノづくり部品大賞」に於いて、フジキンの「電気二重層キャパシタ内蔵 電動高速開閉弁」が、平成26年11月27日、奨励賞の栄誉に輝きました。ご推薦を賜りました東北大学名誉教授大見忠弘先生をはじめ皆様の温かいご支援によるものと、厚く深く感謝申し上げますとともに、ここに改めて謹んでご報告申し上げます。
本製品は、半導体製造工程用の新方式バルブである。製造工程におけるプロセスガス流路の制御に用いる。現在普及しているバルブ方式に比べて、開閉指令への応答性が非常に高い。これにより、プロセスチャンバに供給するガスの種類の瞬時切り替えが可能となる。そのニーズの代表的な例を次に示す。
化合物半導体は、薄膜材料を積層させることで、光デバイスから電子デバイスまで、さまざまな機能を有するデバイスをつくることができるため、現在、情報家電において不可欠な材料であり、その製造技術は日本のコア技術のひとつになっている。特に薄膜結晶の形成プロセスは、デバイス性能を決める最も重要なプロセスである。
現在、量産の薄膜結晶形成プロセスでは、有機金属気相成長法(以下MOCVD:Metal Organic ChemicalVapor Deposition)が用いられているが、MOCVD装置における代表的なガス供給方式は「ラン/ベント」である。図1にMOCVD装置用のガス供給系を示す。本方式は、プロセス開始に合わせてベントラインからプロセスラインにバルブ開閉を切り替えることで、プロセスチャンバに目的の有機金属材料(以下MO材料)を供給する。
図1. MOCVD装置用ガス供給系
本方式では、プロセスチャンバへのMO材料の供給量が、プロセスラインへの供給時間により決まる。よって、原子層レベルにて膜厚・膜質を正確にコントロールした薄膜を形成するためには、バルブ開閉を高速応答化し、MO材料の「急峻な」切り替えを行うことが求められる。
現在、MO材料ガスの切り替え用バルブには、主に圧縮空気を動力源として作動させるエア駆動バルブ(以下AOV)が用いられている。AOV方式は構造が簡単で安価なため、現在広く普及している。
一方、AOVはチューブ長さ、操作空気圧及び同時操作させるバルブ数に対して作動時間が変化するため、高速且つ正確なタイミングでバルブを開閉することはきわめて難しい。そのため、ガス切り替え時に配管内の圧力変動が少なからず発生し、プロセスチャンバ内へ供給するMO材料の濃度が乱れ、膜厚・膜質のバラつきなど、製品「品質」に悪影響を及ぼしている。
そこで株式会社フジキンは、川下製造企業のニーズである急峻なガス切り替えを実現するため、超高速での開閉応答が可能な電動ダイレクトダイヤフラムバルブ(以下、ECV®)を発明し、基本特許「ソレノイド駆動式金属ダイヤフラム型開閉制御弁」を取得した。世界に先駆けて2000年に製品化することに成功し、第2回モノづくり部品大賞(奨励賞)を受賞した。
その後、従来方式AOVの大幅な価格低下が進み、市場拡大のためにはECV®についても大幅なコストダウンが必要となった。このため当社では、ECV®の駆動原理を抜本的に見直し、新たな考案により、低コストの新型ECV®を製品化した。以下、従来製品(AOV、従来型のECV®)と比較し、新型ECV®の特徴とメリットを示す。
先に考案した従来型のECV®(以下、従来型ECV®)の特徴は、バルブ開閉の動力を伝達するステムと磁性体部材とが一体となっており、ソレノイドへの通電により磁性体部材を吸引し、ステムを引き上げることでバルブが開くことにある。また、ソレノイドへの遮電により吸引力が消失し、バネの反発力によりバルブが閉じる構造となっている。
そのため、ガス供給の切り替えに通常よく使用されているAOVと比べ、超高速な開閉応答が可能である。具体的には、開閉応答時間が、AOVの60~100ミリ秒と比較して、ECV®では、その約1/20の5ミリ秒以下となる。
しかしながら、ECV®のソレノイド駆動には大電流且つ特殊な制御を必要とするため、従来型ECV®では、ソレノイド駆動用に外部専用電源を使用していた。外部専用電源は、大容量・高電圧のアルミ電解コンデンサ及びそのコンデンサの充放電制御回路を搭載していたことから小型のものでも幅169mm、高さ161mm、奥行き130mmの大きなサイズであった。さらに、ECV®と外部専用電源とを接続する配線ケーブルは、最大5A程度の大電流を通電し、配線距離に応じて配線抵抗を抑えるために、特殊仕様の高価な配線ケーブルが使われ、コスト高に繋がる問題があった。
そこで、株式会社フジキンではECV®の市場拡大を目指して、新たな発想によるECV®(特許「ソレノイドバルブ」)を今回開発し販売を開始した。
今回開発した新型ECV®では、上記の課題を解決するため、アルミ電解コンデンサではなく、電気二重層キャパシタを用いることで専用電源を大幅に小型化した。電気二重層キャパシタの特徴に合わせた低電圧・大電流で駆動できる特殊仕様のソレノイドを新たに開発した。さらに、電気二重層キャパシタを最適に配置することで、専用電源を駆動回路とともにECV®本体上部のケーシング内に収納できるほどの超小型化を達成した。
専用電源をECV®本体上部のケーシングに収納・内蔵させることで、これまでの大きな外部専用電源が不要となり、汎用の24VDC電源での駆動が可能となった。さらに専用電源をECV®本体に収納することにより、特殊仕様の高価な配線ケーブルが不要となり、省配線化によるコスト削減を実現した。また、配線の短縮化によって配線抵抗が小さくなり、ソレノイドに流れる電流値を大きくすることでソレノイドのさらなる小型化が可能となり、全体のサイズを従来型ECV®の本体と同等まで小型化できた。
参考として、表1に従来技術(AOV及び従来型ECV®)と新型ECV®との性能・機能の比較を示す。また、従来型ECV®及び新型ECV®の外観写真・内部構成図(図2~図5)を示す。
表1. 従来技術と新型ECV®との比較
図2. 従来型ECV®(専用電源付)外観写真 / 図3. 従来型ECV®内部構成図
新型ECV®は、大きく分けて「バルブボディ及び周辺パーツ」「ソレノイド」「電気基板」の要素から構成される(図4、図5参照)。
図4. 新型ECV®外観写真 / 図5. 新型ECV®内部構成図
新型ECV®の専用電源部には、フェノール樹脂をCO2賦活して活性炭化した、特殊な電気二重層キャパシタを使用している。CO2は高価であるが、賦活後の水洗洗浄が不要であり、活性炭中に賦活材の不純物が混入しないため、内部抵抗が極めて小さく、新型ECV®の用途としては最適の電気二重層キャパシタといえる。
電気二重層キャパシタは、二次電池と異なり、電極での化学反応によって電気エネルギーを蓄えるのではなく、イオン分子が電荷を蓄えるため、充放電による劣化は少なく、長寿命の充放電サイクルが可能である。
さらに、電気二重層キャパシタは、アルミ電解コンデンサと比べ、単位面積当たりの静電容量が非常に大きい特徴を持つ。従来型ECV®の専用電源には大型且つ大容量のアルミ電解コンデンサを用いており、電気二重層キャパシタを使用することで、新型ECV®の専用電源部を大幅に小型化することが可能となった。
さらに、電気二重層キャパシタのパッケージング形状を活かし、横並びに重ねて高密度に配置することで、専用電源をECV®本体に取り付けられたケーシング内に駆動回路とともに収納することが可能となった。
このことから、従来使用していた別体の外部専用電源が不要となり、省スペース化を実現した。また、専用電源をECV®本体のケーシング内に収納して内蔵させることによって、特殊仕様の高価な配線ケーブルが不要となり、省配線化によるコスト削減を実現した。
高速開閉応答の性能を実現するには、新型ECV®においても、従来型ECV®と同様に高出力ソレノイドが必要となる。専用電源部小型化のため、新型ECV®の専用電源部に電気二重層キャパシタを採用したが、その特性を有効に利用するためには専用のソレノイドが必要となり、新規で開発を行った。
ソレノイドが同じ吸引力を得ようとする場合、アンペアターンを同じ値にする必要があり、従来型ECV®と同等のサイズでは、コイルの巻き数、コイル線径に制限がかかる。そこで、「耐電圧が低い一方、低内部抵抗であり、数十アンペアの大電流を流すことが可能」という電気二重層キャパシタの特徴を最大限活かし、低電圧且つ数十アンペアの大電流で駆動できるソレノイドを新たに開発することで、必要となるアンペアターンを得るという結論に至った。
最適となるソレノイドコイルの線材径、巻数を導き出し、試作・開発を行った結果、従来型ECV®と同サイズ且つ同等の吸引力を発生可能なソレノイドを開発することに成功した。なお、新型ECV®は、電気二重層キャパシタの採用により専用電源をECV®本体のケーシング内に収納し、ソレノイドから専用電源間の配線短縮化により配線抵抗値を大幅に抑えたことで初めて、ソレノイドに数十アンペアの大電流を流すことが可能となった。
新型ECV®の電気基板ブロック図を図6に示す。外部電源からの供給電圧(24VDC)にて、電気二重層キャパシタ内に電荷をチャージし、後段のスイッチ回路により、新型ECV®ソレノイドへ所定の電流を印加する。
図6. 新型ECV®電気基板ブロック図
電気二重層キャパシタは静電容量が非常に大きく、大電流の充放電が行えることから、上記回路構成にて低電圧、大電流駆動のソレノイドの制御が可能である。さらに、異常動作時の自己診断機能として、外部電源からの供給電圧、電気二重層キャパシタの充電電圧、ソレノイドへの印加電流及び電気制御基板温度のモニタ回路を搭載しており、それぞれのモニタ値を内蔵CPUにて常時監視することが可能である。これらの機能を搭載した電気基板のパーツ配置の最適化・占有スペースの最小化を行い、電気基板を新型ECV®本体に組み込むことが可能となった。
新型ECV®の基本性能となる開閉応答特性を図7に示す。
図7. 新型ECV®開閉応答特性
新型ECV®の開閉応答特性は5ミリ秒以下を実現している。開閉応答の繰り返し再現性についても、±1ミリ秒以内の開閉応答特性のバラツキ幅であることを確認している。
電気二重層キャパシタによる大幅な小型化を達成しつつ、従来型ECV®と同等の性能を確保した。
新型ECV®の仕様は、表2に示す通りである。外部リーク特性、シートリーク特性、パーティクル特性等、半導体製造プロセス用のバルブに必要となる性能を全て満足している。耐久性についても、400万回のバルブ開閉試験の前後で各特性に変化がないことを確認しており、実用性についても全く問題ないと考える。
表2. 新型ECV®仕様
新型ECV®は、半導体製造プロセス用のAOVで最も信頼性の高い「ダイレクトダイヤフラム方式」のバルブ構造を採用している。ソレノイド及び電気基板は新型ECV®専用のパーツだが、バルブボディ・シート・ダイヤフラムなどのパーツの大部分は、同方式のAOVと共通化しており、パーツ在庫点数の低減を図っている。
また、新型ECV®は電動により直接開閉を行うため、AOVのように圧縮空気を動力源として使用しない。このことから、圧縮空気の供給設備であるコンプレッサ・計装用の電磁弁、エアチューブ等の機器が不要となり、コスト削減に繋がる。
新型ECV®は、大阪大学藤原研究室に納入し、MOCVD実機(2インチウェハライン)にてラン/ベント方式によるガス供給を実施した実績を持つ(図8参照)。既に青色LED製作に対する実証は完了しており、実用の量産プロセスへの投入に対しては全く問題ないと考える。
図8. MOCVD装置に搭載された新型ECV®
(大阪大学 藤原研究室にて撮影)
さらに、AOV使用時と比べて青色LED素子の薄膜の界面が明瞭に形成されていることが確認されており、新型ECV®の性能面での優位性が明らかとなっている。
また、東北大学未来情報産業研究館においても新型ECV®を計46台納品し、新規半導体製造プロセス装置(透明電極用ZnO-CVD装置、多層エッチング用RIE装置及び太陽電池作製用クラスター装置)に搭載されている(図9参照)。
図9. ZnO-CVD装置に搭載された新型ECV®
(東北大学 未来情報産業研究館にて撮影)
新型ECV®の高速開閉応答の特性を活かした、多種多様のガスを高速切り替えする新しいプロセス技術への適用が期待される。
従来型ECV®は半導体向けや製薬業界向けなど、精密で高速なバルブの開閉が必要な分野で実績があったが、大型の専用電源が必要で高コストであることから、普及が難しかった。今回、新型ECV®の開発・製品化により、上記の問題点が解消された。現時点で普及しているAOVに対し、従来型ECV®では5~6倍した価格を、新型ECV®では2倍程度に抑える見込みである。
今後の普及が急速に進むと予測し、年間5億円の販売を見込む。
磁ノイズに対しての耐性(安全性)を確認するため、公的機関にてEMC(CEマーキング)試験を行っており、電磁妨害(EMI)規格および電磁感受性(EMS)規格への適合は確認済みである。
RoHS(ローズ)指令に対応するため、制御に使用する回路基板の鉛フリー化を実現している。製品内の有害物質を含む材料をなくし、環境への配慮に取り組んでいる。
新聞記事への掲載2014.05.30付け日刊工業新聞(朝刊)に『フジキン小型機投入 高速応答の電動バルブ』との記事で取り上げられた。