製品情報

機能性Si薄膜材料の開発と太陽電池への応用に関する研究

脇坂健一郎

脇坂 健一郎Wakisaka Kenichiro

株式会社フジキン 執行役員
わざづくり(技術)部門 技術本部 大阪工場 柏原
実戦技術開発センター 専門役
博士(工学)

  • 1980年 熊本大学工学部合成化学科卒業
  • 1982年 同大学大学院工学研究科合成化学専攻修了
  • 2017年 株式会社フジキン入社

2018年11月19日発刊
「ながれをこえて」Vol.16で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

現在、技術本部の実戦技術開発センターでAiIoT技術開発を担当している脇坂健一郎が、1993年に熊本大学より博士(工学)を授与された博士論文です。当時、将来の電力用電源としてアモルファスシリコン(a-Si)太陽電池に着目した脇坂らは、光学的特性を主体とした理論解析、それに基づく光電変換用a-Si材料(i層)、接合形成用a-Si材料(p層)の改善、ハイパワーレーザによるモジュール化技術などにより、画期的な高効率化、高品質化を実現し、a-Si太陽電池の当時世界最高となる変換効率を達成するなど、a-Si太陽電池の技術発展をリードする先駆的な研究となりました。これらの成果は、現在の高効率Si太陽電池の実用化と普及に大きく貢献するものです。

1. はじめに

化石燃料の大量消費による地球環境問題のため、クリーンで無尽蔵なエネルギー源の開発が強く求められている。特に、太陽エネルギーを直接電気に変換する太陽電池には、その期待が大きい。

1973年に起きたオイルショックを契機に、“資源には限りがある”という認識が高まり、代替エネルギー源の開発が世界的規模で行われ始めた。

1980年代に入って、エレクトロニクス製品にも太陽電池が急速に応用され始めた。これは、民生用小型電池に適した新型の低コスト太陽電池が開発されたことによるところが大きい。

低コスト太陽電池の代表例が、アモルファスシリコン(a-Si)太陽電池である。1976年にCarlsonらによって開発されたa-Si太陽電池は、結晶系太陽電池に比べ、製造プロセスが簡単、製造エネルギーが少ない、必要膜厚が1μm以下の薄膜、基板材料が安価、ガス反応なので大面積か容易などの特長がある。しかしながら、a-Si太陽電池を工業化、実用化していくためにはさまざまな問題点があり、形成法の改善、太陽電池構造の最適化、新材料の採用など多くの改善がなされてきた。

筆者らのグループでは、1979年に工業化のための2つの技術を開発した。1枚の基板から高い電圧が取り出せる集積型構造と、不純物混入を防ぎ生産性を上げる連続分離形成法である。これらの技術によって、1980年に世界で初めてa-Si太陽電池を電源とする電卓が発売された。

しかしながら、a-Si太陽電池を電力用として本格的に実用化し、エネルギー問題、地球環境問題の解決につなげていくためには、さらなる高効率化、低コスト化が強く求められていた。

本研究は、これらの課題を解決するために、a-Si太陽電池の変換効率の理論解析、解析に基づくa-Si膜の高品質化、集積型a-Si太陽電池の新しい形成法の開発、a-Si太陽電池の変換効率の向上および次世代の超高効率低コスト太陽電池開発の基礎検討を目的としたものである。

2. 高効率化のための理論解析と開発指針

a-Si太陽電池の一層の高効率化、低コスト化を図っていくためには、太陽電池特性の理論的解析によって開発の指針を得る必要があった。理論解析によるアプローチとしては、太陽電池内部でのエネルギー損失の解析とその低減の対策が必要不可欠である。しかしながら、当時の理論解析は、電気的特性の計算が主体で、光学的特性解析を包含した総合的な検討例はなく、精密な理論解析はいまだ十分ではなかった。

本研究では、精密な理論解析を行うために、光学的特性を主体とするa-Si太陽電池の理論解析手法を初めて開発。光学的な損失についてp層、i層、n層の各層における光の吸収、反射、屈折を考慮した解析を行った。

図1にa-Si太陽電池の構造と各部でのエネルギー損失を示すが、①~⑦の損失の総計が最も少なくなるように材料・構造を選択した場合に最大の変換効率が得られる。

図1 a-Si太陽電池各部のエネルギー損失

図1 a-Si太陽電池各部のエネルギー損失

図2はa-Si太陽電池の各層における収集効率スペクトルの計算結果である。この結果から明らかなように、i層(Ai)、p層(Ap)の光吸収と非吸収光の割合が大きい。これによって、a-Si太陽電池の高効率化を達成するためには、光電変換用a-Si材料(i層)、接合形成用a-Si材料(p層)の改善が最も重要であることがわかった。これを踏まえて、i層についてはa-Si膜中の不純物低減により、p層については膜の欠陥密度低減により、それぞれ高効率化を図っていくという指針が確立された。

図2 a-Si太陽電池の各層の収集効率の計算値

図2 a-Si太陽電池の各層の収集効率の計算値

さらに将来の太陽電池構造として有望なマルチバンドギャップ構造(a-Siとナローバンドギャップの積層構造)についても、初めて光学的特性を主体とする理論解析手法を確立し、2端子型および4端子型のa-Si/結晶系Siマルチバンドギャップ太陽電池の理論解析を行った(図3)。

図3 2端子及び4端子セル変換効率とa-Si(トップセル)i層の光学的特性(B値, Ech)及びテクスチャとの関係

図3 2端子及び4端子セル変換効率とa-Si(トップセル)i層の光学的特性(B値, Ech)及びテクスチャとの関係

その結果、2端子セルでは第1層のa-Si膜i層の光学バンドギャップ(Eopt)が1.7eV(電子ボルト)の場合が最適であり、1.7eV以下でテクスチャの効果が顕著に現れることがわかった。一方、4端子セルにおいては、光学的接合部の屈折率の最適化が特に重要であることがわかった。また、光学的接合部における光損失により、通常は2端子セルが4端子セルより高い効率が得られることを明らかにした。

3. 光電変換用a-Si材料(i層)の高品質化

一般的な製法で作製されたa-Si膜中には、多量の不純物が含まれている。当時、酸素や窒素のような不純物が、空間電荷密度を増大させ、光誘起効果による光導電率比の低下の原因になることがわかってはいたものの、膜中の不純物の低減は、光電変換用a-Si材料(i層)の高品質化のために必要不可欠であった。

筆者らのグループは、a-Si膜中の残留不純物を低減できる連続分離形成装置を開発・実用化した(図4)が、不純物濃度は1019cm-3のオーダーであり、まだまだ不純物は多かった。そこで、この装置の発展型として超高真空対応・分離形成プラズマ化学反応装置であるスーパーチャンバを世界で初めて開発し(図5)、これを用いて作製したa-Si膜の特性について系統的な解析を行った。

図4 従来タイプa-Si成膜装置

図4 従来タイプa-Si成膜装置

図5 スーパーチャンバ(分離形成超高真空対応反応装置)の概略構成図

図5 スーパーチャンバ(分離形成超高真空対応反応装置)の概略構成図

スーパーチャンバは到達真空度では10-7Pa、脱ガスリーク量では10-7atom・cc/secをそれぞれ達成し、当時の分離形成装置と比べて真空性能が大幅に改善された。四重極子ガス質量分析GMAによる排出ガスの分析では、従来の分離形成装置では必ず観測されたN2、H2Oの信号は皆無であった。

スーパーチャンバによって作製したa-Si膜中の酸素、窒素、炭素の不純物について、2次イオン質量分析装置SIMSで分析を行った(図6)。結果は酸素2×1018cm-3、窒素1×1017cm-3、炭素2×1018cm-3であったが、これらは従来の分離形成装置で作製したa-Si膜のものと比べて2~10倍低い値であった。また、電子スピン共鳴ESRスペクトルにおけるスピン濃度および正孔の拡散長はそれぞれ2×1015cm-3、1μmであり、従来の分離形成装置で作製したa-Si膜を約2倍しのぐ良好な値であった。

図6 2次イオン質量分析装置SIMSによる単室炉、従来型分離炉、スーパーチャンバ膜の不純物分析比較

図6 2次イオン質量分析装置SIMSによる単室炉、従来型分離炉、スーパーチャンバ膜の不純物分析比較

これによってスーパーチャンバによって作製したa-Siでは、膜中不純物の大幅な低減が可能となり、欠陥密度の低減および電気的特性の改善が大幅に可能となることが明らかになった。

さらに次世代のa-Si:H膜形成方法の予備検討として、膜へのダメージが少ない直接光CVD法を用いて作製したa-Si:H膜の検討を行った。同法において材料ガスの分解輸送領域を制御することにより、光学的バンドギャップが従来の分離形成装置より狭いa-Si:H膜を形成することができた。この膜は、膜質、信頼性、太陽電池特性など、従来の膜と遜色ないことが確認された。

4. 接合形成用a-Si材料(p層)の高品質化

a-Si太陽電池の窓層であるp層の高品質化のためには、特に広い光学バンドギャップ(Eopt>2.0eV)を持ち、高い電導性を有することが要求されていた。

従来、広バンドギャップ化はメタンガス(CH4)やアセチレンガス(C2H2)などを原料ガスのシランガス(SiH4)中に混合し、グロー放電によって分解することによって行われてきた。また、p型ドーパントとしてはジボラン(B2H6)が一般的に用いられてきた。これらのガスによってp型a-SiC(アモルファスシリコンカーバイド)が形成されてきた。しかしながら、B2H6を用いると分子中に存在するB-Bカップリングが膜中に多数取り込まれ、これが欠陥密度を増加させ、各種の特性の低下(光伝導率の低下、欠陥準位密度の増加、フォトルミネッセンス強度の減少)を起こす事がわかった。

そこで、従来のp型ドーパントに替わって、B-Bカップリングを持たないトリメチルボロン(B(CH3)3)(図7)を世界で初めてドーパントとして用いて、p型a-SiCの欠陥密度、光学的特性および電気的特性などについて検討を行った。

図7ドーパントとして用いた分子の分子構造

図7 ドーパントとして用いた分子の分子構造

その結果、B(CH3)3ドープ膜はB2H6ドープ膜と比べて、

  1. ① PL強度では10倍大きい。
  2. ② PDS測定により0.9 ~ 1.5eVのエネルギー範囲での吸収係数が約1桁小さく、欠陥密度も少ない良質な膜である(図8)。
  3. ③ 電気的特性も良好である。

ことが判明した。

図8 a-SiC膜のPDSによる光吸収スペクトル

図8 a-SiC膜のPDSによる光吸収スペクトル

5. 機能性Si材料太陽電池のモジュール化技術

集積型a-Si太陽電池はa-Siの特長を生かしたものであり、工業的に多くの利点を有するが、さらに一層の出力向上および低コスト化を図るためには、高能率なパターニング技術の確立が重要であった。

従来型のメタルマスク法またはフォトリソグラフィ法はさまざまな問題点があるうえに、大面積化にも限界があった。本研究では、これらに代わる新しいパターニング法として、ハイパワーのレーザを用いてa-Si太陽電池の各層を選択的に加工するパターニング法を開発した(図9)。

図9 レーザパターニング法による集積型a-Si太陽電池の形成

図9 レーザパターニング法による集積型a-Si太陽電池の形成

このハイパワーレーザパターニング法は、Qスイッチ付きNd:YAGレーザにより、a-Si太陽電池の構成材料である透明電極、a-Si、裏面電極に対して、各薄膜層間の選択的除去加工を可能にした。これまでの方式と比べて、工程数、出力特性、大面積化、応用性などの点で有利な方法となった。この方法を用いることによって、従来方式に比べて約20%以上高い出力特性が得られることが確認された。

6. 変換効率向上への総合的アプローチ

本研究では、a-Si太陽電池のさらなる高品質化、高効率化を図る目的で、製造方法面からのアプローチとしてスーパーチャンバ―を用いたi層の残留不純物の低減、材料面からのアプローチとしてB(CH3)3をドーピングガスに用いたp層の形成、構造面からのアプローチとしてレーザパターニング技術を用いた集積型構造などの研究を行った。

これらの研究成果を有機的に統合させて最適化を行った結果、実用的セルサイズ10cm角の集積型a-Si太陽電池において、11.6%という世界最高(注:当時)の変換効率を得た(図10)。

図10 a-Si太陽電池の構造及び太陽電池特性

図10 a-Si太陽電池の構造及び太陽電池特性

本研究の成果は、低コスト太陽電池の本命として大きな期待が寄せられてたa-Si太陽電池の電力用時代の幕開けに大きく寄与するとともに、さらなる発展系である電力用高効率Si太陽電池の実用化に向けた先駆的研究成果となった。