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超高純度有機金属ガス 供給技術に関する研究

山下哲

山下 哲Yamashita Satoshi

(株)フジキン 大阪ハイテック研究創造開発センター
主務
博士(工学)

  • 2001年 姫路工業大学大学院 工学研究科 博士前期課程 物質系工学修了
  • 2001年 株式会社フジキン入社
  • 2011年 東北大学大学院 工学研究科 博士後期課程 技術社会システム専攻修了

2012年12月28日発刊
「ながれをこえて」Vol.11で掲載。
配属部署、役職は発刊当時のものです。

1. はじめに

20世紀後半においてエレクトロニクス産業は革命的に進歩し、現在のわれわれの生活において、パソコン、携帯電話や液晶ディスプレイなどの情報端末や家電製品は社会のIT化・情報化を推進する基盤となってきた。これらの製品の性能を支える根幹となるものが半導体集積回路であり、その主原料はシリコン(Si)である。

Si半導体製造プロセスにおいてプロセスガスの流量制御はガス組成およびプロセスチャンバ圧力を決定する重要なファクターである。その精度がウェーハ表面におけるガス組成を決定し、膜の組成や膜質に大きな影響を与える。

信頼性の高いプロセスを行うためには、制御流量の揺らぎのない高精度な流量制御器が必要となる。われわれは、今までのサーマル式流量コントローラーに替わる流量制御器として圧力調整式流量制御器(FCS-P)を提案してきた。1) 2)

一方、2種類以上の元素で構成される化合物半導体は発光ダイオード、半導体レーザー、高周波デバイス、パワーデバイス等に幅広く利用されている。

化合物半導体は有機金属材料を原料ガスとして利用した有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)を用いて成膜されている。MOCVDプロセスでもシリコン半導体製造プロセスと同様、FCS-Pを用いて狙い通りに制御されたガス組成を基板表面まで供給することでプロセスの精度、歩留まりや信頼性の向上が可能になる。しかし、有機金属材料は室温では低蒸気圧であり、流量制御器が有機金属ガス流量を制御するためには有機金属材料を加熱して必要な蒸気圧まで上げなければならない。そして有機金属材料を充填した容器の下流側に配置される流量制御器は有機金属ガスの再液化・析出を防止するために加熱しなければならない。

現状ではこのような要件を満たすガス供給系は確立されていない。

本研究では、有機金属ガスの供給に対応した高温用FCS-Pの開発を行った。そして、熱分解特性を把握することにより有機金属ガスの再析出や熱分解を防止する加熱条件の決定方法を示した。

さらに、高温用FCS-Pと気化器を組み合わせたFALVS:Fujikin Advence Liquid Vaporize Systemを開発し、液体材料気化供給システムを確立した。

2. 有機金属ガスの熱分解特性

FCS-Pで有機金属ガスの流量制御をするためにはガス供給系の加熱を行わなければならず、その加熱温度は有機金属材料の沸点以上になる場合もある。

有機金属材料の沸点はトリメチルアルミ(TMAl)では127℃、テトラエトキシシラン(TEOS)では168℃と150℃近傍の値を持つ材料や200℃以上の沸点を持つ物質も存在する。

有機金属材料をこのような温度に加熱した場合、有機金属ガス供給系は有機金属材料の加熱温度以上にする必要がある。

ガス供給系の部材である配管、バルブやFCS-Pには電解研磨ステンレス鋼(SUS316L-EP)が主に接ガス部表面として使用され、スプロン100、ハステロイC22なども構成部材の材料として使用されている。

それぞれの材料表面は有機金属ガスの熱分解に対して触媒特性を示し、熱分解温度を低下させる可能性がある。有機金属ガスの熱分解はパーティクルの発生や詰まりに直結する。

そこで、様々な材料表面に対する有機金属ガスの熱分解特性について調べた。測定に用いた金属表面はSUS316L-EP、ハステロイC22、スプロン100、100%Cr2O3不働態処理ステンレス鋼3)、100%Al2O3不働態処理ステンレス鋼4)である。

図1に100ppmの濃度に調整したトリメチルアルミニウム(TMAl)を様々な金属表面で熱分解測定を行った結果を示す。TMAlが熱分解を発生していない温度領域ではTMAl濃度は100ppmで一定を示しているが、分解することによって濃度の低下が始まっていることがわかる。

図1. 各種配管におけるTMAlの熱分解挙動

図1. 各種配管におけるTMAlの熱分解挙動

濃度が5%低下した時の温度を分解開始温度とした場合、TMAlの分解開始温度はSUS316L-EP表面で最も低い320℃であった。

続いて、ハステロイC22、スプロン100ではそれぞれ324℃、332℃とほぼ同程度の分解開始温度となり、100%Cr2O3不働態処理表面、100%Al2O3不働態処理表面ではそれぞれ360℃、372℃と他の金属表面に比べて高い分解開始温度を示した。

これは各表面が有する触媒特性に起因して熱分解挙動が異なっていることを示している。

TMAlの沸点は127℃であり、127℃以上加熱することによって、高温用FCS-Pがフルスケールで流量制御するために必要な蒸気圧となる。そして図1の結果から、分解温度の最も低い320℃まで加熱してもTMAlが分解することなく供給できることがわかる。

このように有機金属ガスの熱分解特性を把握することによって、高温ガス供給系の加熱条件を決定することができる。

3. 高温用FCS-Pの開発

図2にFCS-Pの内部構造の概略図を示す。FCS-Pはガスの入口から制御弁、圧力センサ、オリフィスで構成される流量制御器である。FCS-Pの流量制御の原理はオリフィス上流側の絶対圧力をP1、オリフィス下流側の絶対圧力をP2とした時、P1≧2P2の条件でオリフィスを通過するガスの流速は音速で一定になるという臨界膨張条件を利用している。この条件下でオリフィスを流れるガスの流量はオリフィス孔の断面積とP1の値に比例して変化する。

図2. FCS-Pの内部構造の概略図

図2. FCS-Pの内部構造の概略図

従って、オリフィス断面積によってフルスケール流量が決定し、P1の制御によって設定値に対応した流量の制御が可能となる。有機金属材料は室温で液体又は固体で蒸気圧が低く、臨界膨張条件を満たすために必要な供給圧力を得ることが困難となる。

従って、有機金属材料の加熱によって有機金属ガスの蒸気圧を上昇させる必要がある。しかし、標準用のFCS-Pに使用されている半導体隔膜式圧力センサは、シリコンオイル、半導体チップ、接着剤の耐熱性に起因してゼロ点変動やセンサ出力の不安定化などの問題が発生する。

そこで、半導体隔膜式圧力センサに比べて耐熱性に優れているとされているストレインゲージ式圧力センサを使用し、FCS-Pの高温化について検討を行った。歪ゲージ材質やセンサ素子の成膜プロセス条件の最適化を行うことによって250℃に加熱しても安定に動作する圧力センサが完成した5)。この圧力センサを使用して高温用FCS-Pを作製した。

図3に高温用FCS-Pを用いてアセトンの供給試験を行った実験系を示す。アセトンの濃度はアセトンとArの流量比によって調整し、FCS-P下流に設置したFTIRを用いて濃度モニタを行った。

図3. 高温用FCS-Pを用いたアセトン供給試験の測定系

図3. 高温用FCS-Pを用いたアセトン供給試験の測定系

図4に高温用FCS-Pの制御流量の供給圧力変動の影響を示す。供給圧力は高温用FCS-Pの上流側に設置したバルブ(V1)を開閉することによって強制的に変動を発生した。図より供給圧力が変動したにも関わらず制御流量とFTIRでモニタした濃度は一定となっている。

図4. 高温用FCS-Pの制御流量の供給圧力変動の影響

図4. 高温用FCS-Pの制御流量の供給圧力変動の影響

これは供給圧力が変動しても制御圧力が設定通りに制御されているために流量が変動しないことを示している。つまり、高温用FCS-Pは供給圧力が制御圧力を下回らない限り、常時揺らぎなく安定して流量制御ができる。

図5に高温用FCS-Pを用いて10%の濃度に調整したアセトンを供給した結果を示す。供給開始直後から容器内のアセトンが空になるまで常に10%の濃度を維持し、非常に高い安定性で流量制御を行っている。

図5. 高温用FCS-Pを用いてアセトンの流量制御を行った場合の供給濃度の変化

図5. 高温用FCS-Pを用いてアセトンの流量制御を行った場合の供給濃度の変化

この結果は、容器中の液面レベルの変化に関係なく、高温用FCS-Pが安定に一定の流量を制御していることがわかる。

図6にトリメチルガリウム(TMGa)を任意の濃度に調整して供給を行った結果を示す。TMGaは2~20sccmの範囲で任意の流量に制御を行い、総流量が100sccmとなるようにArで濃度調整を行った。濃度調整を行ったTMGaはガス系下流のFTIRでモニタを行った。ここで高温用FCS-Pは、80℃~150℃の任意の温度で加熱を行った。

図6. 高温用FCS-Pの入力設定とTMGaのFTIRスペクトル強度の関係

図6. 高温用FCS-Pの入力設定とTMGaのFTIRスペクトル強度の関係

この図において下側の横軸は高温用FCS-Pの入力設定、上側の横軸はTMGaの設定流量と希釈用Arの設定流量から計算したTMGa濃度を示している。また、縦軸はFTIRのスペクトル強度を示している。

図からわかるようにFTIRのピーク強度は高温用FCS-Pの入力設定に対して直線的に変化している。

この結果は、検出したFTIRのピーク強度がTMGaと希釈用Arの設定流量の比率から計算したTMGaの濃度に対して比例の関係であることを意味している。ここで、FTIRで測定した気体分子のピーク強度は気体の濃度に対して比例の関係を示す特性を有している。

従って、この結果はFTIRに流れるTMGaの濃度が計算値通りに調整され、ガス流量の比率を調整するだけで濃度が制御できていることを示している。また、高温用FCS-Pの加熱温度が変化しても、それぞれの測定点は平均に対して±1%以内の誤差範囲となっており、高温用FCS-Pの加熱温度は制御特性に影響を与えないことを示している。

以上の結果から高温用FCS-Pによって有機金属ガスそのものの流量制御が可能となり、組成を制御したガスを基板表面まで供給するシステムが完成したことを示した。

4. 高純度有機金属ガス供給システム

4.1 液体材料気化供給システム(FALVS)

高温用FCS-Pを利用した有機金属ガス供給システムは有機金属材料の充填容器から加熱を行い、有機金属ガスの再液化・析出を防止する目的でプロセスチャンバに至る下流配管まで加熱を行う必要がある。

充填容器は様々な容量の容器が存在し、生産現場では容器の交換頻度を少なくするために容量の大きい容器を使用する。高温用FCS-Pを利用した有機金属ガス供給システムでは容器加熱の負担が大きくなるとともに、容器下流の配管や高温用FCS-Pも加熱しなければならない。

さらに、容器の加熱は容器内が完全に空になるまで継続的に行われるため、熱履歴による有機金属材料の分解・変質の発生も懸念される。従って、有機金属ガス供給システムの加熱に必要な消費電力を低減し、高純度の有機金属ガスを供給するには、有機金属ガス供給システムの加熱領域を縮小し、有機金属材料の加熱時間を短縮するシステムが必要となる。

そこで、新しい構造の気化器を作製し、高温用FCS-Pと組み合わせたシステム(FALVS)の開発を行った。

図7にFALVSを用いた有機金属ガス供給系の概略図を示す。FALVSは液体材料の気化を行う気化器と高温用FCS-Pを組み合わせた一体型となる。気化器は3室に区切られたチャンバで構成し、気化したガスの十分な加熱を目的としている。

図7. FALVSを用いた有機金属ガス供給系の概略図

図7. FALVSを用いた有機金属ガス供給系の概略図

つまり、第1室目のチャンバには有機金属材料が供給され、加熱温度に相当した蒸気圧で気化した気体で満たされる。第2、第3チャンバでは第1チャンバで確実に気化したガスが再液化しないように保温加熱する。また下流に設置した高温用FCS-P内部に液体が入りこまないような流路としている。そして気化した有機金属ガスを高温用FCS-Pに送りこみ、流量制御をしている。

図4で示したようにFCS-Pは供給圧力の変動が起こっても制御流量の変動を起こさないため、この特性を利用して気化器内圧力の制御を行っている。

気化器と高温用FCS-Pの間には気化器内圧力(P0)のモニタを行う圧力計を設置し、気化器への液体供給の制御に利用している。気化器への液体の供給はシンプルな構造となるようにバルブとオリフィスのみで構成し、バルブの開閉によって制御する。

図8にFALVSを用いてTMGaの流量制御を行った結果を示す。この図では横軸が時間、左の縦軸がFALVSの制御流量、右の縦軸が気化器内圧力を示している。本測定において、制御流量は56sccm、気化部と高温用FCS-P部の加熱温度はそれぞれ75℃、95℃とした。TMGaに対して熱分解測定を行うと、分解開始温度はスプロン100表面で最も低い208℃であった。

図8. FALVSを用いたTMGaの流量制御

図8. FALVSを用いたTMGaの流量制御

従って、この加熱条件でTMGaの分解は発生しない。気化器内に液体のTMGaが供給される気化器内圧力の閾値はFALVSの制御圧力:101.3kPa abs.以上である110kPa abs.とした。

まず、気化器内圧力が一定を保っている時、気化器内には液体のTMGaが存在し、気化器の加熱温度に相当する蒸気圧となる。図8において気化器内圧力は174kPa abs.であった。

一方、TMGaを流量制御している間の気化部の温度は70℃まで下がっていた。

この温度低下はTMGaの蒸発潜熱によるものであるが、70℃におけるTMGaの蒸気圧は170kPa abs.であり、気化器の加熱温度に相当する蒸気圧に近い値が得られている。そして、気化部が設定通りの加熱温度に制御されていなくても、気化器内圧力は制御圧力以上であるため、FALVSは問題なく流量を制御できる。従って、このシステムでは厳密な気化部の温度制御の必要がないことがわかる。

次に、TMGaの流量制御を続けることで気化器内の液体のTMGaがなくなり、気化器内圧力の低下が始まる。最終的に気化器内圧力が閾値:110kPa abs.に達すると、液体材料供給用バルブが開いて気化器に液体のTMGaが供給される。そして気化器内圧力は174kPa abs.まで上昇し、閾値以上の気化器内圧力を常に維持する仕組みとなっている。

つまり、気化器内圧力に閾値を設定することによって、液体材料供給用バルブとオリフィスのみの構成で気化器内圧力を閾値以上に保つことができる。

この液体供給の仕組みは有機金属材料の充填容器や有機金属ガス配管のヒーティングの排除も可能にしている。そして、FALVS内の高温用FCS-Pは供給圧力の変動に関係なく、安定に流量制御を行うため、図8のような急激な圧力変動が起こってもFALVSの制御流量は全く変動しないのである。

以上の結果から、有機金属ガス供給系の加熱領域の縮小を実現し、有機金属ガスを安定した流量で供給するシステムが完成したことを示した。

5. まとめ

超高純度の有機金属ガスを基板表面まで狙い通りの組成で供給する技術を確立するため、有機金属ガスそのものの流量制御を行うことが出来るシステムの開発を行った。

まず、有機金属ガス供給系に使用されている金属表面に対する熱分解温度を調べることにより、有機金属ガス供給系の加熱温度条件を決定する方法を示した。

次に、有機金属ガスの蒸気圧を制御圧力以上に保持するだけで常時安定に流量制御可能な高温用FCS-Pを開発した。高温用FCS-Pを用いて有機金属ガスの流量制御を行い、その他のガスとの流量比を調整することによって狙い通りの組成に調整したガスを供給することが可能であることを明らかにした。また新しく開発した気化器と高温用FCS-Pを組み合わせることによって、FALVSが完成した。

以上により有機金属ガス供給システムの加熱領域を縮小し、高純度の有機金属ガスを安定した流量で供給することが可能なシステムが完成した。

参考文献

1)
M.Nagase, M.Kitano, Y.Shirai and T.Ohmi, Jpn. J.Appl. Phys., 40 (2001) 5168.
2)
M.Nagase, O.Nakamura, M.Kitano, Y.Shirai, T.Ohmi, in Abstract. AVS 46th International Symposium, (1999), 33.
3)
Y.Shirai, T.Kojima, M.Narazaki and T.Ohmi, Microcontamination '94, (1994), 272.
4)
M.Yoshida, A.Seki, Y.Shirai and T.Ohmi, J. Vac. Sci. & Technol. A, 17 No.3 (1999) 1059.
5)
日下忠興、野坂俊紀、岡本昭夫、筧芳治、松永崇、井上幸次、田中恒久、吉竹正明、竹中宏、沢村幹夫,
大阪府立産業技術総合研究所報告, 17 (2003) 47.