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大流量水素ステーション向け超高圧バルブ機器

表彰状画像が入ります。

2023年 第20回
超モノづくり部品大賞「モビリティー関連部品賞」受賞製品

第20回 超モノづくり部品大賞(主催:モノづくり日本会議様/日刊工業新聞社様)において、フジキンの大流量水素ステーション向け超高圧バルブ機器が「モビリティー関連部品賞」を受賞しました。2014年に日本で初めて商用水素ステーションが開所し、数年後には「燃料電池大型トラック等の大型モビリティ(Heavy Duty Vehicle、以下HDV)」についての開発や実証に向けた取り組みも開始されました。このHDV開発に対応するために、次世代水素ステーションの整備も進んでいます。次世代水素ステーションの課題解決について、以下本文でご説明いたします。

出典:経済産業省「FCV・水素ステーション事業の現状について」(2021年3月18日)

1. 部品の内容および特徴

本製品は、次世代水素ステーション用のバルブ機器です。主に超高圧水素を流したり止めたりする遮断弁と流量を制御する調節弁の2種類があります。次世代水素ステーションは、将来の普及促進が望まれるHDVに対応するため、水素の高速充填用バルブを必要としています。従来の燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle、以下FCV)など軽量用途のモビリティ(Light Duty Vehicle、以下LDV)向け水素ステーションは国内で既に約170箇所設置されていますが、大型HDVには対応できていません。図1に次世代水素ステーション向けバルブ機器の開発成果とその効果を示します。

図1 次世代水素ステーションへの対応(大流量バルブ)

図1 次世代水素ステーションへの対応(大流量バルブ)

1-1. 課題解決

以次世代水素ステーション向けバルブ機器の開発にあたって以下の課題を解決する必要がありました。

①.HDVに搭載される燃料の量は40kg(海外仕様は80kg)で現在のFCVの5kgの8倍以上。現在の水素ステーションでの平均充填量は30g/sec、FCVに約3分で充填できるのに対してHDVでは約22分かかることになる。商用の大型トラックは1年で10万km走るといわれており、FCVより稼働距離が長く、水素充填回数も増えるため、充填時間の短縮を図ること。

②このため、水素ステーションにおける水素供給系バルブの大流量化を実現すること。

③ 大流量化とともに、安全性、保守性など基本性能を確保向上させること。

この課題を解決するにあたっては、既存の水素ステーション向けに開発した超高圧水素バルブ機器で培った安全性と耐久性の技術を更に発展させるとともに、大流量化も達成しました。

1-2. 次世代水素ステーション用バルブ(遮断弁)の開発成果(図2)

① 大流量化

FCVに30g/secで水素を充填するには、機器の圧力損失等をカバーするため、ステーション内の水素供給系のバルブはCv値(流体の流れやすさを示す容量係数の数値が大きいほど大流量): 1を必要としています。これに対しHDVへの高速充填を実現するため約2.5倍のCv値: 2.5を確保。充填効率は約2倍向上し、充填時間の短縮が見込めます。

② コンパクト化

バルブを大流量化する為には、バルブ流路内径を大きくする必要があります。バルブの内部閉止する為の駆動部の必要推力は、流路内径の拡大に伴い大きくなります。推力を大きくする為には、駆動部直径を大きくする必要がある為、バルブ全体が巨大化してしまいます。
従来の技術の延長で設計した場合、大流量化したバルブの駆動部直径は、FCV向け水素ステーション用バルブの駆動部直径と比較して約1.5倍になる計画でした。
本製品では、単位面積当たりの駆動部推力を上げることでコンパクト化に成功し、駆動部の直径をFCV向け水素ステーション用遮断弁の直径と比較して約10%増にとどめることができました。バルブ本体部においても、内部部品の最適な配置やパッキンの形状変更等行うことで、FCV向け水素ステーション用バルブと同等のサイズに収めています。

③ 高耐久化

水素ステーションで使用されるバルブの評価試験方法が規定されている、「ISO19880-3 Gaseous hydrogen –Fueling stations-Valves」では、厳しい開閉耐久サイクルの要求があります。
合計102,000回の開閉耐久サイクルが求められている一方、16,000回毎にシール部品の交換は許容されています。本製品は高い加工精度や表面処理等FCV向け水素ステーション用バルブで得られた技術を活かし、バルブの開閉動作において、上下動するディスクの動きを安定化させる為、芯ずれ防止部品のガイドを追加。さらにグランドパッキン形状を変更(特許取得済)して締付け力を上げることにより、ディスクの保持力を上昇させ、ディスクのシール部に特殊表面処理(特許取得済)を施すことにより、開閉耐久サイクル中にシール部品の交換を行うことなく、102,000回の試験に合格しました。

④ 安全性の強化(冗長設計)

水素ガスは、分子の大きさが小さく、他のガスと比較して最小発火エネルギーが低く、漏洩した場合、火災の発生リスクが高いことが知られています。現行の水素ステーション用バルブでは、水素ガスの外部漏洩を防止するために、グランドパッキンシールが採用されています。
しかし、従来の水素ステーション用バルブの構造では、大流量や高頻度の充填が行われた場合、繰り返し作動や温度変化により、グランドパッキンを押さえる部品(パッキンボルト)に緩みが生じる可能性があると考えられました。パッキンボルトの緩みは外部漏洩の可能性が高まることを意味しています。
そこで、パッキンボルトの緩みを防止するために、ロックプレートを導入しました。ロックプレートは、パッキンボルトに取り付けられ、緩みを防ぐ役割を果たします。これにより、外部漏洩を防止する機能が向上し、水素ステーションの安全性向上に寄与することができました。

図1 次世代水素ステーションへの対応(大流量バルブ)

図2. 遮断弁の大流量化/コンパクト化/高耐久化/安全性強化

⑤ 国際規格の適合

上述(3)の通り、水素環境で使用されるバルブは「ISO19880-3 Gaseous hydrogen –Fueling stations-Valves」の規格に準拠することで国際的に安全性の基準を合格したバルブとして認められます。本規格は2018年に制定された新しい規格ですが、本製品はこの規格に準拠した試験に合格し、国内及び海外の水素ステーションに適用できるバルブとしています。

2. 評価項目

2-1. 技術の独創性

仕様の比較を表1に示します。既存品に比べて、大流量化とコンパクト化を実現。

表1. 製品仕様

No. 開発課題 【既存】FCV向け水素ST用バルブ 【新規】HDV向け水素ST用バルブ
1 Cv値 1 2.5
2 使用流体温度範囲 -40~+85℃ -40~+85℃
3 駆動部径 180mm 198mm
4 本体部面間幅 100mm 76mm
5 流路内径 6.5mm 10mm
6 開閉耐久性能(実験値) 16,000回 102,000回

※95MPa用スリーブのみ材質はHRX19を使用。

2-2. 性能

製品開発時の試験結果を表2に示します。
全項目において良好な結果が得られ、HDV向け水素ステーション用バルブとして問題が無いことを確認済みです。

表2.大流量超高圧水素用バルブ評価結果

No. 試験項目 試験内容
1 耐圧試験 試験圧力125MPa、試験流体Heガスにて加圧し、強度に問題が無いことを確認した。
2 気密試験 試験圧力105MPa、試験流体He ガスにて外部漏れ試験を行い、シール性に問題が無い事を確認した。
3 弁座漏れ試験 試験圧力105MPa、試験流体He ガスにて弁座漏れ試験を行い、シール性に問題が無い事を確認した。
4 開閉耐久試験 試験圧力100MPa、試験流体He ガスにて100,000回開閉させ、バルブの性能に問題ない事を確認した。
5 低温性能確認試験 試験圧力105MPa、-40℃まで徐々に冷却させ、低温環境によるバルブの性能に問題が無いことを確認した。
6 振動試験 JIS D1601自動車部品振動試験方法に基づく評価として、振動数67Hz、加速度4.5G、時間2Hrで加振後、試験圧力:105MPa、試験流体ヘリウムガスにて漏れ試験を行い、シール性に問題が無い事を確認した。
7 水素ガス圧力
サイクル試験
(ISO19880-3準拠)
試験圧力:90MPa、試験流体:H2ガス、試験温度:-40~+85℃の試験条件より繰り返し加圧し、102,000回(約2カ月)の圧力サイクル試験を行い、バルブの性能に問題が無いことを確認した。図3に試験風景。

 

図3. 水素ガス圧力サイクル試験風景(水素エネルギー製品研究試験センター)

図3. 水素ガス圧力サイクル試験風景
(水素エネルギー製品研究試験センター)