フジキンの液体材料気化供給システム「ファリバス®」の開発者7名(2017年度第7回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞(受賞) [製品・技術開発部門]は、半導体の成膜工程において、原料である液体有機金属をヘリウム(以下 Heと記載します)などのキャリアガスを使わずに直接気化(ガス化)、圧力変動を精密にコントロールし、一定量をシリコンウエハー上に供給して薄膜を形成する世界初のシステムを開発。キャリアガスにより希釈する従来方式と比べ、生産性が大幅に向上(100%濃度での大流量供給、運用コスト低減、プロセス時間短縮、システム小型化)、ウエハーの大口径化や回路の高集積化等、次世代半導体の製造に貢献。
デジタル映像が4Kや8Kテレビで高画質化し、オーディオもハイレゾ対応プレーヤーで高音質化しています。これらの日常生活に与える感動は、半導体デバイス革新(高集積化)の成果です。その半導体デバイスは、シリコン基板上に何層もの金属などの薄膜を成膜しつつ、それらをエッチングなどで微細加工して製造されています。その要となる重要な工程である「成膜工程」や「エッチング工程」の改善にファリバス®(以下「FALVS®」)は貢献しています。
FALVS®は、半導体製造プロセスの化学気相成長(CVD)装置に原材料の有機金属(MO:Metal Organics)を効率的に気化して供給するシステムとして開発しました。図1.の従来方式と新方式の比較をご参照下さい。従来の方式では、液体MOをキャリアガスでバブリング・気化して保温配管でプロセスチャンバに供給していました。
図1. 従来方式と新方式(FALVS®)の比較
FALVS®は液体MOを直接に加熱・気化して供給する新方式です。高価なHeなどのキャリアガスが不要になること、配管系の保温が不要になることから、省資源で省エネとなるシステムです。2014年の販売開始直後からご好評を賜り既に1,500台以上の出荷実績を上げています。
図2.にFALVS®の外観概略図と断面構造図を示します。新規開発の小型気化部と、フジキンの固有技術を活用した流量制御部を組み合わせています。液体として圧送されてくるMO材料を安定的に気化させる気化部内の構造設計技術や、圧力モニタセンサや制御バルブなどの構成部品技術および全体の制御技術を確立しました。同時に、気化部からの高温ガスに対応する制御技術として、フジキン固有技術である高精度な圧力制御式の流量制御技術(FCS®-P技術)を確立しました。この気化部技術と制御部技術の組合せによりFALVS®を完成させました。
図2. FALVS®の外観概略図と断面構造図
FALVS®はMOガス供給ユニットであり、CVD成膜装置の直近に設置可能です。主に液体MOを効率良く気化する「気化部」と気化したMOガスを高精度で流量制御する「流量制御部」から構成されています。図3.にFALVS®の外観写真を示します。液体MOは「Source IN」から供給され、気化したMOガスは「ガスOUT」からプロセスチャンバに供給されます。
製品全体を高温加熱するため、アルミ板にカートリッジヒータを内蔵した方式を採用、ジャケット式保温材で覆うことで高い均熱性を達成しました。制御回路基板は使用上限温度が低いため、FALVS®本体から離した場所に設置出来るように別置き基板ケース内に設置する設計です。気化部内の圧力をモニタする高温対応の圧力センサP0は、図2.の断面構造図(右)に示している位置に実装し、気化部内の高温ガスの圧力検知専用としています。
この圧力センサで気化部内の圧力を常時読み取ることによって、気化部内の液残量を確認することを可能にし、定期的に気化部に液体MO材料を供給しています。また、予加熱部の搭載で熱容量・蒸発潜熱の大きな液体MO材料にも対応可能としています。また、気化部と予加熱部間に断熱層を設けることにより、気化部より設定温度の低い予加熱部への熱移動を防止し、気化部温度の低下を防止することで気化効率を向上する構成としています。
図3. FALVS®製品外観
FALVS®のガス供給可能な最大温度は220℃であり、蒸気圧が非常に低い(120℃加熱で0.1kPa abs.等)Si系を始めHf、Ta、Zr、Al、Ti、Zn、In、Ga、P系等のMO材料に対しても十分な蒸気圧が確保でき、精密で安定な流量制御が実現可能となります。MO材料の機能を最大限に活かすためには、各元素の組成比の精密な制御が必要とされます。
FALVS®は温度変化や供給圧力変動等の外乱要因に対して制御ガス流量のゆらぎがまったく無いため、化合物半導体製造プロセスの重要なパラメータである圧力およびガス組成比の精密な制御が可能となります。このため、高誘電率材料を始め強誘電体やバリアメタル、透明導電膜、化合物半導体材料等に使われるMO材料の選定範囲を飛躍的に拡大でき、新しいプロセス開発を切り拓く可能性を大いに秘めていると言えます。
液体材料気化供給システムの流量安定時間は、従来技術が15秒必要なのに対してFALVS®では1秒未満です。制御信号を受信後1秒未満でガス流量を高速・高精度で制御可能としています。
高速応答のメリットは制御ガス流量が安定するまでの時間が短くできるため、非常に高価なMO材料ガスを捨てる量が劇的に少なくできることであり、MO材料ガスを高い効率で使用できる省資源プロセスが可能となることです。
FALVS®を採用することで、約60秒間のプロセス時間に対して15秒間も高価なMO材料ガスを捨て続けなければならなかった従来のプロセスレシピから大きく改善でき、省資源プロセスが実現できることになります。
従来技術では、液体材料供給時にキャリアガスとしてHeガスを大量に使用していましたが、FALVS®ではHeガスを一切使用する必要がありません。
このため大幅なランニングコスト低減が可能となります。
小型気化部は最大220℃まで高温対応可能であり、完全気化方式を実現しているためMO材料ガスを完全気化し、パーティクル発生の原因排除を実現しています。その他、温度管理・入熱方式の改善を取り入れ、学問に基づいた気化原理を採用することによってMO材料のデポ・詰まりフリーを実現しており、メンテナンス頻度・周期を大きく改善できました。
近年、ウエハー基板の大口径化に伴いガス供給の大流量化が求められます。
FALVS®は従来技術に比べて約1.8倍の供給能力を達成しています。
上述の通りキャリアガスが不要であり、完全気化方式で100%濃度のMO材料ガス供給が可能であるため、大流量対応も可能となっています。
ここで、表1.にFALVS®の競合製品に対する技術の優位性・独創性について比較します。
表1. 従来方式との比較
気化部内の圧力を常時検知することによって液体材料を気化部に充填するシステムを考案し、FALVS®に適用しました。従来から蓄積してきた高温対応の圧力センサ技術を活用し、実現したものです。
高温対応の圧力センサは1ミリ秒以下で応答し、気化部への液体材料の供給・停止動作を正確に制御しています。
制御シーケンスを図4.に示します。プロセスチャンバへのガス供給を連続して行っている状態で、気化部への液体材料供給の制御動作について、図4.に示す①~⑤のポイントについて以下に説明します。
図4. 圧力検知方式の制御シーケンス
このように①~⑤の制御動作を繰り返すことで、気化部へ定期的に液体材料を供給しています。気化部内のガス圧力は、流量制御部が流量制御を行うために必要な最小供給圧力以上の圧力を常時確保しており、安定な流量制御を可能としています。
上記の様に気化部内の圧力は常時変動しています。この変動を吸収し揺らぎなく高精度な流量でガスを供給する技術(FCS®-P技術)をフジキンは保有しています。
FALVS®ではこの技術を活用して流量制御部を開発しました。その結果、気化部と流量制御部を直結することが可能となり、プロセスチャンバ直近に設置可能な小型システムが完成しました。
従来方式の液体材料気化供給システムではキャリアガス(主にHeガス)が必須でしたが、FALVS®を使った場合、キャリアガスが完全に不要です。
従来方式を用いた成膜プロセスでは、常時Heガスが6リットル/分で使用されていますので、同様のプロセスをFALVS®で行った場合、1年間でキャリアガス代として約400万円の節約になります。
FALVS®は気化部と流量制御部を一体化し、小型化・フットプリント低減を実現したため、プロセスチャンバの直近に設置が可能になりました。
加熱領域が縮小されるため最大86%の省エネ効果が見込めます(図1.)。
またFALVS®では100%濃度のMO材料ガス供給が可能です。従来方式で必要不可欠であったキャリアガスが不要となるため、FALVS®では同じ制御ガス流量でプロセスを実施しても従来方式と比べて処理時間が短くでき、タクトタイム向上に大きく貢献できます。
これは、供給するMO材料ガスに対してHeガスでの希釈が無くなるためです。「ウエハー1枚の処理時間が12%向上した」とご評価頂きました。
また従来方式では、「MO材料の分解や析出等のトラブルが頻発し、3カ月に一度は装置のメンテナンスが必要」とのことでしたが、FALVS®ではこのようなことは起こっていません。
設備投入費およびメンテナンスや交換時の生産停止時間が不要になるため、生産性が大幅に向上し膨大なコストメリットが見込めます。
FALVS®の出荷・販売台数の累計は1,500台を超え、現在では、主力製品の一つとなっております。
国内では燃料電池評価システム用、切削工具表面へのハードコーティング用のほか、滅菌・殺菌用でH2O2液の濃縮用途など複数社様からお引き合いを頂いています。また、各種新材料でのお引き合い・ご採用を頂いており、ご使用用途に広がりを見せています。
今後はLED、太陽電池、高周波デバイス、パワーデバイス用のCVDプロセス装置への搭載需要を見込んでいます。また、ALDやアッシング、酸化、拡散、洗浄などのプロセスへの応用展開も視野に入れており、3年後には累計3,000台の販売実績を目指しています。